恵文社一乗寺店 スタッフブログ

恵文社一乗寺店の入荷商品やイベントスケジュール、その他の情報をスタッフが発信いたします。

イタリア・フィレンツェ「ブルスコリ工房の手しごと展」

ギャラリーアンフェールでは現在『ブルスコリ工房の手しごと展』を開催中です。

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ブルスコリ工房は、イタリア・フィレンツェで1881年に創業された歴史ある老舗革工房。当時は革表紙の製本を中心にされていて、現在は製本の他、イタリア各地から依頼されるアンティーク家具の装飾を主に手がけられています。

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ここで現在5代目を務めるのが、京都出身の齊藤美菜子さん。以前はバッグ職人としてイタリアで活動されていましたが、ご縁があって先代からブルスコリ工房を引き継がれたそうです。

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まさかこんな遠く海の向こうから展示がやってくる機会があるとは思っていなかったので、最初にご連絡をいただいた時はとても驚いたのを覚えています。京都出身の斎藤さんのお声掛けで実現した今回の展示では、長く受け継がれてきた金装飾などの技法を活用したバッグ、小物を中心にご紹介。本場の上質なイタリアンレザーが美しい革小物が並びます。

今回は展示販売の他に、工房での作業の様子もたくさんご紹介いただいています。

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こちらは製本の工程を紹介した写真。この工房で長い長い時間を過ごしてきた道具と、当時から受け継がれてきた技法を用いて、いくつもの工程を経て、やっと出来上がる一つの商品。手作業で丹精込めて作られている工房の様子がよくわかります。

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金装飾に使用される鉄製スタンプは、創業当時から使われている物。壁に貼られた紙にはスタンプ見本がずらり約1800種類!どれもとても緻密で美しいデザイン。現在ではこのスタンプを作る職人さんがいなくなってしまったとのことで、とても貴重な道具です。

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このスタンプを使って金装飾が施された革小物。小箱やコースターの他、本がデザインされたブルスコリ工房ならではのユニークなバッグも。

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こちらは色とりどりのレザーで作られた長財布。中にはアンティークレザーを使ったものも。こちらはお好きな色合わせでオーダーしていただくこともできて、今回とても好評いただいています。

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どれもとても上品な佇まいで、手仕事だからこそのしなやかで凛とした美しさと、ぬくもりが伝わってきます。

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時代の移り変わりとともに変わっていくこと、長い時間をかけて守られ続けてきたこと。そして今も着実に、一日一日新しい時間を積み重ねられている、フィレンツェの街角の小さな工房。ここで紡がれてきた長い長い時間の一頁にぜひ出会っていただけたらさいわいです。ご来場をこころよりお待ちしております。

 

イタリア・フィレンツェ「ブルスコリ工房の手しごと展」
開催期間:2018年5月8日(火)-14日(月)
開催時間:10:00-21:00(最終日は18:00まで)
開催場所:ギャラリーアンフェール

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ブルスコリ工房
1881年創業。牛革を使用した本の装丁を行ってきた工房です。
当時からの道具と技術はそのまま現在の作り手へと引き継がれています。
イタリア国内の5つ星ホテルの室内調度品製作やヨーロピアン家具のレザー貼り・純金装飾に加えて近年はこれら伝統技術をバッグやスモールレザーグッズに使用するなど新しい事にも挑戦しています。
1800年初頭~1900年初頭に作られた道具から生まれる手しごとと、その道具から創られる約1800種類の模様のコンビネーション、職人クオリティーを是非お楽しみ下さい。
期間中、表情の異なるイタリアンレザーから1つ1つ丁寧に仕上げられた”同じとない特別なもの”を展開いたします。

 

(上田)

スタッフ募集のお知らせ

恵文社一乗寺店ではスタッフを募集します。
ものを販売することに興味ある方、ぜひあなたの感性や意欲、これまでのスキルを活かして、一緒にお店を作っていきませんか。スタッフの企画に対して、背中を押してくれる職場です。

 

【応募条件】
・京都市内にお住まいの方に限らせていただきます
・Excel、Word、Photoshop が滞りなく使用できる方

 

【募集内容】

①学生アルバイト募集
週に2-3日勤務(1日につき5時間以内)
主な業務内容:雑貨売り場での接客、商品管理 等
時給860円~
※研修期間3ヶ月間 

②パートスタッフ募集
週に3-4日勤務(1日につき6~8時間)
主な業務内容:当店オンラインショップの受注対応、発送処理、
商品の梱包作業、雑貨売り場での接客 等
時給860円~
※研修期間3ヶ月間

募集は終了いたしました

 

【勤務場所】
〒606-8184 京都市左京区一乗寺払殿町10 恵文社一乗寺店 

 

【選考方法】
ご来店頂き、店舗向かって右側扉入ってすぐの雑貨売り場スタッフまで、お声かけください。応募用紙をお渡し致します。お持ち帰り記入いただき、ご自身の写真とあわせて、当店店頭にいるスタッフまで提出願います。選考の上、書類通過された方のみ、ご面談のご連絡をさせて頂きます。提出書類のご返却は致しませんので、ご了承願います。

 

採用が決まり次第、募集は終了致します。採用に関するお問い合わせは 当店店舗サイト問い合わせフォームよりお願致します。お電話での問い合わせはお受けしておりません。

 

採用担当:田川

NIMAI-NITAI -風に靡く布-

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現在ミニギャラリーでは、インドの伝統的な手仕事を活かした服作りを行うnimai-nitaiの展示会を開催しています。2014年に当店で展示いただいたのが初めてのご縁でしたが、現在は滋賀に事務所、インド・デリーにはアトリエを構えていらっしゃいます。木版手捺し染め、手紡ぎ手織りのカディー、手刺繍(カンタワーク)、これらの布を用いて、代表の廣中さんによるデザインを元に現地のテイラーさんと作り上げる衣服です。

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とりわけ目を惹くのは、白地に白の顔料で手捺し染めたもの。まるで花嫁衣装のように清楚かつ華やかなこのシリーズは、光に透けると模様が浮かび上がります。かつてのマハラジャも身に纏った生地を贅沢に使った、ワンピースやカシュクール。これらブロックプリント生地はインド北西部、日中は気温が非常に高い砂漠地帯、グジャラート州アジュラックプルと、ラージャスターン州のバグルー村で生産されています。

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こちらはインド東部ムルシダーバードで手織りした生地から仕立てたトップス。広いインドでは場所ごとに気候も異なり、こちらは雨に恵まれた地域。空気を含み柔らかな手紡ぎ糸で仕立てた、薄手の一枚です。同じ布地のカーディガンは日除けにも最適。まるで羽衣のような軽やかさを是非、お試しくださいませ。

 

NIMAI-NITAI -風に靡く布-
4月28日〜5月11日
恵文社一乗寺店 生活館ミニギャラリー

 

(田川)

丸尾末広大原画展『麗しの地獄』[ミニフェア] [サイン会]開催のご案内

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「少女椿」などで知られる漫画家、イラストレーターの丸尾末広さんによる最新刊『丸尾画報DX III』『丸尾画報DX I 改』『丸尾画報DX II 改』(エディシオン・トレヴィル)刊行を記念して、5月29日より【丸尾末広大原画展「麗しの地獄」】をギャラリーアンフェールにて開催決定!

 

展覧会に先駆けて5月4日(金)から、恵文社一乗寺店 書店売場にて関連書籍を集めたミニフェアを開催いたします。また、今回の展覧会では、丸尾末広さんご本人が上洛され、サイン会も開催決定!関西では初となるサイン会、この機会にぜひご参加ください。ご来店をこころよりお待ちいたしております。

(5月末刊行予定の300部限定『超愛蔵版 丸尾画報DX grandioso』も原画展会場にて販売予定です。)
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丸尾末広大原画展『麗しの地獄』@恵文社一乗寺店 ギャラリーアンフェール

展覧会情報はこちらをご覧ください。http://www.keibunsha-store.com/gallery/6449

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サイン会ご参加には、事前に当店での関連書籍のご購入(丸尾画報DXシリーズ)及び、「整理番号引換券」と「整理番号券」が必要となります。必ず以下詳細をご確認の上、ご参加ください。

 

丸尾末広大原画展『麗しの地獄』/恵文社一乗寺店サイン会

[日時]2018年6月2日(土)14:00開始

[会場]恵文社一乗寺店 コテージ

[定員]100名(事前に「整理番号引換券」と「整理番号券」が必要となります)

 

▼サイン会参加方法▼

①恵文社一乗寺店で関連書籍を購入し「整理番号引換券」を受け取る。

<配布期間>

2018年5月4日(金)10:00~6月2日(土)14:00まで

※当店にはレジが数箇所ございます。配布場所は、5月28日(月)までは書店レジ/5月29日(火)以降はギャラリーアンフェールレジとなります。

<ご注意>

・上記配布期間で関連書籍(丸尾画報DXシリーズ)をご購入いただいた方にレジにて整理番号引換券をお渡しします。

「整理番号引換券」のみではサイン会参加はできません。必ずサイン会当日「整理番号券」とお引換えをお願いいたします。

・当日までに紛失された場合は無効となりますのでご注意ください。

・配布予定枚数に達した場合、上記配布期間内であっても配布終了する場合がございます。ご了承ください。

・遠方のお客様で、書籍お取置き及びサイン会参加ご希望の方はお電話にてお問合せください。(恵文社一乗寺店 TEL 075-711-5919)

<対象書籍>

丸尾画報DX Ⅰ改 / 丸尾画報DX Ⅱ改 / 丸尾画報DX Ⅲ

各種「普及版(赤表紙)」「特装版(ミリタリー表紙)」いずれもサイン入・無がございます。普及版、特装版共に価格、内容は同じです。

 

②サイン会当日、整理番号引換券を「整理番号券」に引き換える。

 <引換日時>

2018年6月2日(土)10:00-14:00(配布場所:恵文社一乗寺店 コテージ)

整理番号引換券をお持ちの上、「整理番号券」に引き換えをお願いいたします。

 <ご注意>

当日先着順に整理番号を発行いたします。(引換券に記載している番号は整理番号ではありません)

整理番号引換券をお持ちの場合も、上記の引換時間以降のお引換えはできない(サイン会にご参加いただけない)場合がございます。くれぐれも引換時間内にお引換えいただくようご注意ください。

・ご参加は「お一人様につき一冊まで/関連書籍(丸尾画報DXシリーズ)に限る」とさせていただきます。(サイン入り本をご持参の場合は、お名入れをさせていただきます)

・会場及び店内で一度に全てのお客様にお並びいただくスペースがないため、数名様ずつ集合時間を設けさせていただきます。当日引換えていただいた整理番号券に記載されている集合時間に再度会場に集合いただき、サイン会にご参加となります。番号によっては、多少お待たせする場合もございますので、当日のアナウンスにご注意ください。

 

(上田)

 

2018年4月書籍売上ランキング

2018年4月書籍売上ランキング

 

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1位『森のノート』酒井駒子筑摩書房

 

2位『はな子のいる風景イメージを(ひっ)くりかえす』(武蔵野市立吉祥寺美術館)

 

3位『発酵文化人類学』小倉ヒラク(木楽舎

 

4位『Spectator vol.41 つげ義春』(エディトリアル・デパートメント)

 

5位『STUDIO VOICE vol.412 見ようとすれば、見えるのか?』(INFASパブリケ-ションズ)

 

6位『繕う暮らし』ミスミノリコ(主婦と生活社

 

7位『ATELIER to nani IROのソーイングクローゼット』伊藤尚美文化出版局

 

8位『落としもの』横田創(書肆汽水域)

 

9位『猪熊弦一郎のおもちゃ箱』丸亀市猪熊弦一郎現代美術館小学館

 

10位『あおいよるのゆめ』ガブリエーレ・クリーマ(WORLD LIBRARY)

 

 

1位『森のノート酒井駒子筑摩書房

先月に引き続き。4/15にはサイン会を開催しました。酒井さんの作品世界をそのままに、終始穏やかな空気のまま、盛況のうちに終了いたしました。著作は引き続き販売しております。(サイン本のご用意はありません。)

 

2位『はな子のいる風景イメージを(ひっ)くりかえす』(武蔵野市立吉祥寺美術館)

ゾウのはなこを中心に廻るアーカイブプロジェクトを一冊の本に仕上げた類を見ない写真集。今回入荷した重版分も即完売。4/30には重版を記念した編者の松本篤さんと文化人類学者の佐藤知久さんによる対談も開催。他記事にて本書の詳しい紹介もしています。(http://keibunshabooks.hatenablog.com/entry/2018/04/30/000000

 

 

3位『発酵文化人類学』小倉ヒラク(木楽舎

当店のロングセラー。いつのまにか帯に大プッシュ店として恵文社の名前も刻まれるようになりました。4/9には小倉ヒラクさん、『魔法をかける編集』の藤本智士さん、ミシマ社の三島邦弘さんによる鼎談を開催。何をするにも「編集」という視点が必要だと気づかされる熱い内容でした。

 

4位『Spectator vol.41 つげ義春』(エディトリアル・デパートメント)

毎回人気のスペクテイターですが、今号の人気は群を抜いています。作品再録や年譜、ファン必見の一冊。しばらくは売り切らさずに並べます。

 

5位『STUDIO VOICEvol.412見ようとすれば、見えるのか?』(INFASパブリケ-ションズ)

こちらもファンの多い徹底した特集主義雑誌。今号ではドキュメンタリー/ノンフィクション作品・作家を特集。当店仕入分完売。版元品切。毎回「買っておけばよかった」という声をよく聞きます。

 

6位『繕う暮らし』ミスミノリコ(主婦と生活社

生活雑貨を扱った売り場「生活館」にて、ダーニングや刺繍の本がよく売れています。衣食住を扱った本はやはり間口が広く、良書も頻繁に出版されています。ぜひ店頭でお気に入りの一冊をお探しください。

 

7位『ATELIER to nani IROのソーイングクローゼット伊藤尚美文化出版局

こちらも「生活館」から。テキスタイルブランド「ATELIER to nani IRO」のスタッフと伊藤さんが考えた大人のための日常着のパターンを18点、47のバリエーションで収録した一冊です。

 

8位『落としもの横田創(書肆汽水域)

個人出版社が刊行した、作家「横田創」の短篇集。絶版になってしまった過去の作品を読み返し、その力量に改めて驚く。批評誌等でその名を目にすることも増え、ファンとしては嬉しい限り。手放しにおすすめします。

 

9位『猪熊弦一郎のおもちゃ箱丸亀市猪熊弦一郎現代美術館小学館

素晴らしい芸術家は、同時に研ぎ澄まされた審美眼を持ち合わせているものですが、猪熊さんが蒐集した物や、目にしてきた品々は何か特別な匂いがします。再収録された『画家のおもちゃ箱』が新刊で読める日が来るとは。

 

10位『あおいよるのゆめ』ガブリエーレ・クリーマ(WORLD LIBRARY)

絵本棚のロングセラー。店頭での人気は随一です。大抵の仕掛け絵本は赤ん坊を前に、数分とその原型を留めてはいられませんが、こちらはボードブックのため、すぐ壊れることがありません。

 

(鎌田)

象、人、写真、本―記憶を運ぶもの。『はな子のいる風景 イメージを(ひっ)くりかえす』

昨年、東京の武蔵野市立吉祥寺美術館で開催された「コンサベーション_ピース  ここからむこうへ」展の展示の一環として製作された記録集『はな子のいる風景 イメージを(ひっ)くりかえす』。

特殊な造本のため手作業により製作された本書は、展示期間中からその企画・編集内容のユニークさと書籍としての質の高さから話題を呼び、展示終了後もミュージアムショップや全国のいくつかの書店でさらに広がりを見せ、今年に入り美術館が制作発行する書籍としては異例の重版となりました。

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1949年、戦後の日本に最もはやくやって来たアジア象の「はな子」は、2016年に69歳で亡くなるまで、その生涯のほとんどを井の頭自然文化園で過ごし、日本で飼育された最長寿の象として昭和から平成の時代にその場を訪れた多くの人々により記憶されています。

本書は、市民がそれぞれ個人的に撮影した「はな子」との記念写真を集め、選び、時系列に並べ、さらに撮影された日の飼育日誌や「はな子」が来日した際の新聞記事など様々な記録を通じて、戦後を生きた人びとの多くにその存在を知られながら、厳密に辿られることのなかった一頭の象の生涯を描きだすという構成が取られています。

来日最初期の1950年にはじまり、亡くなった2016年にいたるまで、全く無関係な人々がそれぞれに撮影した写真は、押入れの奥に仕舞われていたアルバムの一枚からハードディスクに保存されていたデジタルデータのワン・ピースまで、家族の記録として個人的に所持・保管されていたもの。

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そこに「はな子」という共通の存在が読み取られ、集め並べ、束ね綴じられることで、写真の背景であったはずの「はな子」という存在は書籍のなかでやがて前景化し、親密でプライベートな家族の肖像の連なりは、一頭の象の生きた69年の時間を明かすような機能を果たします。

そして同時に、「はな子」という存在が生きた時間の表れとして捉えられたこれらの写真の集積からは、まったく無関係なはずだった人びとのあいだに、その前に立ち、ポーズを取り、シャッターを押したという経験や行為の同一性という繋がりが見出されます。

この夜の間中、それはそこにあって、ああ塔を見ているなと私の承知している友人たちのすべてに、パリを越えて私を結びつける。この塔のおかげで、しっかりとした中心部に塔を持つ流動体と、私たちはなるのである。塔は親しい友人である。

『エッフェル塔』ロラン・バルト 宗左近 / 諸田和治 訳

パリの人びとがエッフェル塔の存在を通じて同じようにその塔に紐づけられた他者たちを感じ取っているように、「はな子」という一頭の象の前に立つという共通の行為によって、異なる時間や記憶を生きている個々人は重なり合います。

本書には、被写体や撮影者、提供者として本書の写真に関わった人びとへ編者が共通の質問を投げかけ、それぞれから寄せられた回答を集めた小さな冊子も付されています。「はな子」とのエピソード、撮影された当時のエピソードなどとともに編者から投げかけられた「あなたがこれまでに失った大切なものを一つ選んで、その経験を教えてください」というアンケートは、提供者たちそれぞれの個人的な体験と記憶を引き出します。 

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同じ「はな子」という存在を見てきた人びと、「はな子」がいた風景のなかに生き、共に「はな子」という存在を失った人びとがそれぞれに語る喪失。ほんらい無関係な他者とは共有が難しいはずのきわめて個人的な体験や記憶は、「はな子」という共通の「場」を通じることでここに記され、読まれ、本書を開くまで「はな子」を知らなかったかもしれないまったく別の誰かにすら、新たな経験/記憶として憶われる可能性を持つことになります。その時、それを読む人も書籍を通じて記憶を受け継ぐメディアのようにして存在し始めます。

 

個々に撮影された家族写真を集めることで別の文脈を発見し、いつもそこにいた象を起点にする(人と象をひっくりかえす)こと、起点となった象の存在から放射状に広がる人々が個別に持つ記憶へと還っていく(象と人をひっくりかえす)こと。そんな視点の往還とともに、本書はフィジカルなレベルでも実際にイメージをひっくり返すというユニークな造本が採用されています。

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様々なページに仕掛けられた「ひっくりかえす」ことのできる貼込みや差込みイメージ。その記録の表面と裏面の関係には一定のルールが設けられているわけではなく、アルバムから剥がされた写真の裏面や、同じ日に撮影された別アングルの写真、家族内の別の人物を被写体にした写真、表面では8歳だった女の子が裏面では自身の1歳の子どもを連れて「はな子」の前に立つ写真など、めくるたびに現れるもう一つのイメージにはそれぞれに異なる繋がりや飛躍があり、ときには一息に時間を飛び越えるような感覚を覚えたり、そこから様々な想起がはたらくような作りになっています。

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また、時間に浴されることで変色した写真そのものの再現からは、戦後の高度経済成長期に普及したフィルムカメラとそれによって撮影された写真というメディアそのものが、人びとにとっての記憶を想起させる記録物として不可欠な物であり、時代と不可分な役割を果たしてきたことがあらためて感じられます。

 フィルムや現像された写真は直接触ったり手渡すことのできる外在化された過去であり、そのようなフィジカルな記録物を持っていた時代の記憶の在り方や想起の質そのものが、テクノロジーの進歩によって氾濫する「共有されることを前提とした体験や記録」の時代のなかで失われつつあるのかもしれないということ。そんなことにも思いは及んでいきます。

 

人びとの記録が紡ぐ「はな子」の生涯、「はな子」によって共有される個人の記憶、写真がひきだす人びとの語り、語られたものを受け渡すメディアとしての一冊の本。

一息に言い表すことのできない多様な魅力をそなえた本書。「はな子」と同じ時代を生きてきた方々はもちろん、「はな子」が失われたあとの現在を生きる方たちにもぜひ手に取って体験していただきたい一冊です。

 

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(涌上)

えみおわす 春夏の服展

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今年もえみおわすの春夏の服展がはじまりました。ラック虫の赤、藍、ログウッドの黒、様々な色で染めたお洋服が並びます。今回は新しく、ザクロで染めたグレーも加わりました。少し緑を含んだような、深みのある色。白色のお洋服と並んだ様子は、濃淡の諧調を表すような美しい眺めです。

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こちらは新作、半袖カレンシャツ。パターンから新しく仕立てました。首周りをすっきり見せるカレンシャツの良さを残しつつ、二の腕部分まで袖のあるこちらは、光沢のある生地感とも相まって上品さがプラスされたようです。パンツにも、スカートにも何にでも合いやすい。巻きスカートはグレーを含めた5色の展開です。

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会期は連休を終えた7日まで。皆さまのご来場をお待ちしています。

 

えみおわす 春夏の服展
4月24日 - 5月7日
恵文社一乗寺店ギャラリーアンフェール

 

(田川)