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恵文社一乗寺店 スタッフブログ

恵文社一乗寺店の入荷商品やイベントスケジュール、その他の情報をスタッフが発信いたします。

FABRIC STORE by chahat のお知らせ

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今週末から始まる、chahatによるインドのテキスタイル展。生地の一部を切り貼りしたchahatお手製DMを、店頭では配布しています。会期中はブロックプリントや藍染、機織などの生地が、会場を囲うように並ぶ予定です。昨年同様に、今回も測り売りですので、ご希望の長さでお求めいただけます。

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(以下、chahatサイトより)
何故だかわからないけど、若い頃から布が好きでした。高校時代にお小遣い貯めてアフリカの泥染めの布を買ったり、大学時代、旅先の沖縄でたまたま入った骨董屋で古布の端切れを見つけて有り金はたいて買い占めたり。あの時は東京に帰る2泊3日のフェリーの中で食べるものを買うお金もなくてひもじい思いをしました。かといって裁縫の知識もないのでその布で何かを作ったというわけではありません。ただ気に入った布を見つけると手に入れずには入れなかったのです。多分、DNAに布好きの遺伝子が組み込まれているのでしょう。大人になってもそれは変わりません。好きな布を見るとどうしても欲しくなります。相変わらず裁縫の技術はありませんが。
インドは布好きにとっては天国です。広大な国土でそれぞれの地域に根ざした、精緻で素朴で生き生きとした布たちが織られています。イギリスの植民地時代にいちどは途絶えたかに思えた布産業ですが、ガンジーをはじめとした優れた指導者のもと、織物文化の伝統は復活し、現代でも各地で手織りの生地が織られています。繰り返しますがインドは広い、一生かけてもまわる事は出来ません。それでも、毎年インドを訪れる度に、新しい布との出会いを求めて新しい街を訪れるようにしています。

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インドのテキスタイルに関わらず、模様なのか配色によるものか、その1枚が
どうしても気になり購入してしまった、そんな経験を持つ方は少なからずいらっしゃるのはないでしょうか。私も使う予定はないのに、縞生地ばかり集めていた時期があります。眺めても答えは出ないのですが、それも布の面白さなのかもしれません。今回並ぶ商品は、国内の生地屋さんではお目にかかれないものばかり。お目当の生地を探すというよりは、個性的な布との出会いを楽しんでいただけばと思います。

 

FABRIC STORE at KEIBUNSHA 
日程:5月27日〜6月9日
出展者:chahat
会場:恵文社一乗寺店 生活館ミニギャラリー

 

(田川)

今週の新入荷、5月第3週

今週の新入荷、5月第3週をお届けします。

 

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今週まずご紹介するのは、井田千秋さんの『おさまる家』。アンティークの家具、レトロな調度品、季節の草花、お気に入りの本と洋服、あたたかい飲み物と食べものを囲む食卓の情景。童話や児童文学の世界で表現されるような美しくも生活感あふれる描写が魅力的な井田千秋さんのイラストレーション。

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女の子と部屋をテーマにしたその作品は、ミリペンやシャープペンシル、鉛筆などを用いて描かれ、繰るページに次々と現れる繊細で細密なタッチからたちあがる温もりを感じさせる小部屋の数々は、懐かしい憧れのようにいつまでも心に残ります。これまでにも個展から生まれ、発表された『おしろにすんでいる』や『ふゆのいえ』などの作品集が入荷するたびに即売り切れとなってきた、当店でも非常に人気の高い井田さんの作品。

初のカラー作品となった今回の『おさまる家』、それぞれの家具や小物の存在感をより一層引き立てる淡く優しい色彩も素晴らしく、その静止した世界のなかで語られる素敵な物語を確かめるように、繰り返しページを開いてしまいます。初回入荷分は初週に売り切れ、追加入荷分も早くも在庫僅少となっています。気になる方はぜひお早めに。

 

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写真家、深瀬昌久の代表作にして日本の写真史においても非常に重要な作品集『鴉』。1986年に蒼穹舎より初版が刊行されて以来、2度復刻を遂げながらいずれも少部数のため即完売となっていた幻の作品集がイギリスのMACKより刊行されました。自分自身にこだわり続け、最後にはセルフポートレート作品に辿り着くこととなる深瀬が、自身の孤独と寂寞を重ね合わせるように撮り集めてきた鴉の写真群。空を飛ぶ飛行機の底面や風に煽られる少女の髪など、鴉の羽ばたきを思わせるようなモチーフも含みながら展開されるモノクロ写真の連続は、いずれも圧倒的な説得力を持って見る者に迫ります。初版のデザインやレイアウトを踏襲した作りも素晴らしく、保存版となる一冊です。この機会にぜひ。

 

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季刊フードカルチャー・マガジン『RiCE』の第3号、特集は「カレーライフ」。たんなる一料理にとどまらず、カルチャーやライフスタイルとして日本独自の進化を遂げてきたフードコンテンツとしてのカレーを大特集。自身にとってカレーはコミュニケーションツールであり、ライブであり、ライフであると語る、カレー研究のスペシャリスト水野仁輔さんのテキストに始まり、店主の生き方そのものが詰まったカレー店を紹介する「ライフスタイルカレーショップ」ページ、カレー好きの必携書と言われる『カレーライスと日本人』の著者、森枝卓士と、彼を父に持つ森枝幹による親子二代のテキストなどが続きます。「毎日つまんないなんて言ってる人はカレーを食べに行きゃいい。そうしたら面白いよ、絶対」「カレーって呼んだらもうカレー。服とかも「今日カレー着てるね」「お前今日カレーだね」とか」等々、気持ちのよい名言(迷言?)の数々が飛び出す小宮山雄飛×ダースレイダーのカレー偏愛対談も必読です。

また、多彩なジャンルのカレー通がお気に入りのカレー屋などを紹介する企画では、又吉直樹や佐内正史、下田昌克など錚々たる面々に混じり、恵文社スタッフの鎌田裕樹もアンケートに参加、京都のとあるお店のカレーを紹介しています。こちらもぜひ誌面にてチェックしてみてください。

 

川田絢音の詩がきわめて孤独に見えるのは、そこに描かれているのが異国や異人だからではない。川田絢音がすぐれた詩人だからだ。力や名声や「あたたかい家庭」や、ふつうの人が財産だと思うようなものから決定的にはぐれている身体ひとつの女が、どんなに強靭なことばにたどりつくか。詩のもつ孤独の力が、弱く小さいはずの人間の精神を、遠い遠い高みまでつれていく。

…詩を書いて生きていくというのは、人から遠く遠くはなれたところに飛んでいき、目のくらむような、光りかがやく孤独を手に入れることなのだろう。

(渡邊十絲子『今を生きるための現代詩』より)

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萩原朔太郎賞を受賞した2015年の『雁の世』以後に書かれた、詩人・川田絢音による詩集『白夜』も今週入荷しています。用いられている言葉のひとつひとつは決して難解ではないものの、それが詩作品として形を成すときには、一語一語が別々の輝きを放ちながら異物として身体に響くような、明確な意味としてひと掴みに読みくだすことができない世界を読み手の中に残してゆきます。約束された共感や同意ではなく、ズレや小さな差異を行間に生み出しながら、言葉を用いてより言葉から遠い場所を目指すようなその連なりは、定型化と形骸化の一途をたどる言葉のひとつひとつにふたたび水をあたえ、回復させるような力をそなえています。見知った言葉の知らない側面を見出すように、ゆっくりと時間をかけて身体に馴染ませたい詩集です。出版は、すぐれた詩集や評論を出版する書肆子午線より。

 

その他、お菓子研究家・福田里香さんの久しぶりのレシピブック『季節の果物でジャムを炊く』、間近に控えた当店コテージでのトークイベントも楽しみな奥山由之さんの『君の住む街』、編集工房ノアより届いた今江祥智さんのデッドストック本『愛にー7つの物語』、また、こちらは書籍ではないですが当店コテージにて定期的にライブを行ってくださるSSW長谷川健一さんの昨年12月に行われたライブ映像を収めたDVD『長谷川健一ノンマイクソロライブ』なども入荷しています。それぞれ、店頭やオンラインショップでチェックしてみてください。

 

それでは、また来週をお楽しみに。

 

《今回ご紹介した本》

■『おさまる家』井田千秋

www.keibunsha-books.com

■『鴉 / RAVENS』深瀬昌久/MACK

www.keibunsha-books.com

■『RiCE 03 特集 カレーライフ』ライスプレス

※後日オンラインショップでご紹介いたします。

■『白夜』川田絢音/書肆子午線

 

(涌上)

Kite新刊ツアー『山の名前がわからない』

 

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Kite(カイト)は、本の企画から制作、販売までも行うアーティストとデザイナーによるブックレーベル。3冊の新刊出版を記念した展示会を、昨日よりギャラリーアンフェールにて開催しています。

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『山の名前がわからない』
加納千尋さんによる写真集。真夜中のサービス・エリアの風景と、高速バスの車窓で構成。トラックの荷台に掛かるビニールから着想を得たというビニールクロスの表紙に、シルクスクリーンで印刷。デザインは阿部航太さん。

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『pinhole』
阿部海太さんの絵と、amakentさんの文章による絵本。部屋を覗き込むように、小窓のついた外函と、本誌の不揃いなページ、造本も含め物語であることを体現しています。

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『small trees vol.2』
辻角光志朗さんによる建物のドローイング集の2号目。前号に引き続いて壁紙を表紙としています。頭ではなく、手が書いた線を心掛けたという、意図から離れた家々。
 
新刊は内容と形態ともに異なりますが、読み手のイメージを膨らませる「余白」が共通してあるように思います。押し付けるでも、突き放すのでもない、読み手との程よい距離。ひとページずつ咀嚼して、自分の反応を試してみたい気持ちに駆られます。
 

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初日はKite書籍の装丁を手がける村上亜沙美さんの製本教室も開催。参加者の方には会場内で、凧型のしおりをつけた、空色の上製本ノートを仕立てていただきました。完成品は会場の芳名帳に使用していますので、ご来場の際はあわせてご覧くださいませ。
 
Kite新刊ツアー2017 『山の名前がわからない』
5月13日〜5月22日
恵文社一乗寺店 ギャラリーアンフェール
 
Kite の当店取り扱い書籍は こちら
 
(田川)

 

今週の新入荷、5月第2週

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月末に開催するユーリー・ノルシュテインのアニメーション上映会に向けた、機材確認の様子。(ここで流れているのは他の映画です。)

映画館のようにとはいきませんが、大画面でみる映像というのはやはり良いもので、機会があればこっそり閉店後にでも、ひとりで好きな映画をみてみようかと企んでいます。上映会、ぜひふるってご参加下さい。

 

その週に入荷した活きの良い本をご紹介する「今週の新入荷」。

それでは、5月2週をお届けします。

 

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滝口悠生さんの手書き原稿で装われた『疾駆/chic』8号。

“浅草”をテーマにした今号では、滝口さんと浅草の町を歩きます。浅草寺を通り、色街を抜け、生粋の浅草のひとにバーで会う。玉石入り乱れた、懐かしい匂いをもつこの町を歩きながら見る風景が、眼前に浮かびあがるようです。今回誌面に使用された紙は、江戸時代に盛んに作られた浅草紙を基にした、マーメイドという名前のもの。そのざらついた触感も合わせてお楽しみください。

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自転車で通りがかったときには、気がつかなかった路地があるように、バス、電車、自転車、徒歩、そのどれもがそれぞれ別の目線をもっているとするならば、滝口さんの小説から感じるのは徒歩の目線。実は少し前、滝口さんが当店に立ち寄ってくださいました。聞けば、ずいぶんな距離を歩いてこられたそうですが、その表情には微塵もそんな様子はありません。別れ際に、このあたりで昼飯が食べられるところはありますか、と尋ねられ、本当は近所の蕎麦屋を勧めたかったのですが、あいにくの定休日。代わりにフレンチのシェフをしていた店主が営むカフェを紹介し、滝口さんが去った後で、歩いて向かうにはそこまで距離があったと気づきました。それでも滝口さんは平気で歩いたことでしょう。そうやって小説が生まれるのかもしれません。

 

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絵画のような、圧倒的な表現力で、1940年代からニューヨークの街を撮り続けた写真家、ソール・ライター。一度表舞台から姿を消すも、2006年にシュタイデル社が、個人的な写真をはじめとした初の作品集を出版して以来、再び脚光を浴びます。特に日本では近年、展覧会の開催や、ドキュメンタリー映画が上映されました。注目していた方も多かったのでは。こちらの『ソール・ライターのすべて』は、書名の通り、初期のポートフォリオ、広告写真、プライベートヌード、ペインティングなど約200点とともに、アトリエ写真、愛用品などの資料も豊富な決定版。待望の国内初作品集です。話題になったこともあり、品薄になっているそうですが、どうにか初版分を店頭用にも仕入れることができました。次回の入荷はおそらく重版分となります。初版ご希望の方はぜひお早めに。

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ドキュメンタリー映画の字幕翻訳を手掛けた翻訳家の柴田元幸さんは、本書の解説で「ソール・ライターの写真集ほど、『アメリカ人』というタイトルが似つかわしくない写真集もほかにないだろう。」と書いています。ドラマチックなシーンと鮮やかな色彩。柴田さんの指摘を読むまで考えてもいませんでしたが、たしかにソール・ライターの写真には懐かしさや郷愁を認められず、半世紀以上経った今なお新しく思えるからこそ、私たちはその作品に惹かれるのかもしれません。ホイットマン、ディキンソンの二人の詩人を引き合いに出し、同時代にアメリカで活躍した写真家、ロバート・フランクとソール・ライターの関係を比較する部分など、見事な解説でした。

 

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国内外で活躍する写真家・濱田英明が撮った、人と犬との暮らし。何気なくともかけがえのない毎日。ドッググッズブランド、フリーステッチが運営する「犬と暮らすということ」をテーマにしたウェブマガジン「ONE DAY」上で連載されたものから、9組の家族を選び編まれた写真集『ONE DAY LIFE WITH A DOG』が発売。濱田さんの光り輝くような写真に、その家の人間と犬がどのように日々を過ごしているかを書いた文章が添えられています。表紙は茶色と白の二種類ご用意。愛犬の毛色に合わせてもよし、お好きな方をお選びください。

 

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90年前後生まれの書き手たちが中心となり執筆/編集する総合批評誌『ヱクリヲ』。最新6号は、第一特集「ジャームッシュ、映画の奏でる音楽」、第二特集「デザインが思考する/デザインを思考する」の二本立て。批評だけにとどまらず、インタビューやブックガイドなどを用いて、より多角的に見つめた一冊に。

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1964年、ウォーホルが初期のクライアントのために製作した幻の絵本を復刊した、『アンディ・ウォーホルのヘビのおはなし』(河出書房新社)。中毒と言っていいほどにセレブ好きだったウォーホル自身を描いたような煌びやかな一冊。

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写真家の馬場わかなさんが、自身の両親への取材を皮切りに、17組の普段の食卓を訪ね、生まれたフォトエッセイ『人と料理』(アノニマ・スタジオ)。えみおわす阿部さん、服部みれいさん、ささたくやさん…当店でもお馴染みの清々しい人々が素晴らしい料理を振舞います。レシピ付き。

 

毎週のことですが、ここに書ききれないものも多数入荷しております。

ぜひ店頭の書籍も眺めにお立ち寄りください。長くなりましたが、今回はこのあたりで。また来週もお楽しみに。

 

(鎌田)

〈今回紹介した本〉

『疾駆/chic 8号』編集・菊竹寛 (YKG Publishing)

www.keibunsha-books.com

『ソール・ライターのすべて All about Saul Leiter』(青幻舎)

www.keibunsha-books.com

『ONE DAY LIFE WITH A DOG』濱田英明(フリーステッチ)

www.keibunsha-books.com

今週の新入荷、5月第1週

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「Spectator」や「ソトコト」などで特集が組まれ、オルタナカルチャーの文脈でも注目される発酵。今週まずご紹介するのは、その両誌に寄稿するなど、いま最も注目される著者による発酵カルチャーブック『発酵文化人類学』。

「発酵デザイナー」という異色の肩書を持つ著者、小倉ヒラクさんは、大学で文化人類学を学んだ後、フランスで美術を学びデザイナーとして独立、発酵食品のデザインを多く手がけるうちに発酵に魅せられ、三十代で東京農業大学に入りなおして微生物の世界を勉強したという来歴の持ち主。それまでの経験がそのまま仕事になり、一冊の本としてまとめ上げられた本書は、発酵文化創世の物語から、文化人類学者レヴィ=ストロースの「ブリコラージュ」の援用、各地で伝承されてきた郷土文化のリサーチや、ヒトと菌をめぐる贈与経済のコミュニケーション、醸造現場で働く人々のワークスタイルから見出すビジネスモデル、バイオテクノロジーと発酵文化から照射するヒトの文化の未来、などなど実に多様なトピックを経巡りながら、あくまで読みやすさを意識した語りかけるような文体が魅力です。発酵はあくまで人間が見出した文化であるという語り口を基底に、これからの社会の在り方にまで話が及ぶなど、様々な体験をもとにした総合的な知が詰まった面白くてためになる一冊。

ヒッピームーブメントを牽引した「Whole Earth Catalogue」を想起させるような、書棚のなかで一際映える本の顔もまた印象的です。

 

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先日、こちらの記事でもご紹介した台湾のイラストレーター、Fanyuの『手繪京都日和』。2014年の5月、ちょうど3年前にこの街を訪れ、ゲストハウスに滞在しながら巡り、暮らし、手描きに残した日々の記録としての京都ガイドブック。

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みやこメッセでの春の古本市や、恵文社からほど近い高野川沿いにあった喫茶店「狩人」(昨年閉店されました)など、非常にローカルな場所で偶然目にした人々の日常の姿をスケッチしているのも興味深く、記録としての意味を感じさせてくれます。描くことを通じて未知の場所や人々との関係を取り結び、自らの経験を咀嚼し表現する。彼女がこの本で示しているのは、旅をすることの醍醐味や滞在者として街に関わることの楽しみそのもの。自分たちの住み暮らす街がどのように描かれているかという観点からはもちろんのこと、自らが滞在者となったときにどのように未知の土地や未知の光景と関係を結べるのだろうかということも思わず考えてしまうような一冊です。前書きと後書きを翻訳した当店オリジナルの冊子では、そんな彼女の旅への所感も語られています。ぜひ手にしていただきたく思います。

 

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翻訳家・斎藤真理子さんらが中心となって新たに創刊された、韓国を語らい・味わい・楽しむ雑誌『中くらいの友だち』。在韓日本人や在日韓国人をはじめ、家族や仕事の関係で韓国に所縁ある人々がひろく執筆に関わり、ワンテーマで括ることをあえてせずに一個人の目線からそれぞれに韓国にまつわるエッセイを寄稿する。そんな雑誌作りの前提に新鮮さを感じます。食や建築、暮らしなどの文化的な側面を切り取ったものから、両国を行き来し、関わる人々の体験や記憶を綴ったものまで、様々なトーンを持ったテキストのそれぞれは韓国に関する豊かなイメージを読み手のうちに新たに残してゆきます。長い時間をともに過ごし、いくつもの小さな体験や知識を共有することでそれまでに知らなかった友人の横顔や魅力を垣間見る瞬間があるように、一筋縄ではいかない多声的な文章群に触れるうちに見出される韓国の新たな横顔や魅力は、一人一人が政治やイデオロギーを超えてより深い関係性を育てていくきっかけともなることでしょう。今後の続刊も楽しみな雑誌です。

 

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つげ義春や横尾忠則など、シュールで不条理な夢の世界に魅せられた数多くの才能ある絵描きたちに連なるように、夢への並々ならぬこだわりを持つ一人の新たな作家の漫画作品集が届きました。高野紗織さんの自費出版ブック『夢の本』。音楽を視覚化する譜面ドローイングや小さいテレーズというバンドのドラムなどで活動する彼女が、18歳よりつけ続けていたという夢日記を一冊にまとめた作品集です。

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覚醒しているときには間違っても繋がらないもの同士がいとも簡単に、あたかもそれが当然のように繋がってしまう、奇妙で不思議な味わいを持った夢の論理が、圧倒的な表現力で見事に描かれています。描いた夢への解説、十年に及び書き連ねられてきた夢メモからのお気に入りの抜粋なども併録した本書。全編手描きの眩しくも才気走った描写の数々に魅了されます。ページを繰ることでそのドアが開くもうひとつの世界をぜひ体験してみてください。

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著者の高野さんのご厚意により、先着で著者サイン本、ポストカード特典もお付けします。おはやめにぜひ。

 

その他、台湾のアーティストユニット「男子休日委員会」が2013年に本国で出版した『左京区男子休日』の日本語訳版『台湾男子がこっそり教える!秘密の京都スポットガイド』、2017年にトリノで行われたブルーノ・ムナーリの大規模な同名回顧展の公式図録『Bruno Munari Artista totale』、写真家のホンマタカシによるドキュメンタリー作品群の特集上映パンフレット『ニュードキュメンタリー映画』、アウトサイダー・キュレーター櫛野展正さんが出会った街の表現者18人の生きざまに迫り記録した『アウトサイドで生きている』なども今週入荷しています。ご来店の際にはそれぞれをチェックしてみてください。

 

それでは、また来週をお楽しみに。

 

《今回ご紹介した本》

www.keibunsha-books.com

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(涌上)

2017年4月書店売上ランキング

越した先の大家さんがとても面倒見の良い方で驚いています。一昨日は、作りすぎたからと揚げたての唐揚げとおにぎりを部屋まで持ってきてくださいました。少し前の日本では当たり前の風景だったのでしょうか。当然、家賃は手渡し。今度はちらし寿司を作ってもらえるそうです。

それでは、2017年4月の書店売上ランキングをお知らせします。

1位『ぽかん 06号』ぽかん編集室

文藝を愛する大人たちによる自由な小冊子最新号

 

2位『わざわざの働き方』パンと日用品の店 わざわざ

長野の山の上に店を構える、小さなパン屋の経営と考え方

 

3位『今日の人生』益田ミリ ミシマ社

ミシマガジンの連載が一冊に。何気ない日常をこまやかに描くコミックエッセイ

 

4位『世界をきちんとあじわうための本』ホモ・サピエンスの道具研究会 ELVIS PRESS

もはや定番、あざやかで心地よい気づきと学びの本

 

5位『ムービーマヨネーズ 創刊号』Gucchi's Free School

日本未公開の映画を紹介するリトルプレス

 

6位『murmur magazine for men 第3号』エムエムブックス

murmur magazine男性版、今号では思想家中島正を特集

 

7位『跳ね兎』短歌:山尾悠子 挿画:山下陽子 LIBRARIE6

山尾悠子歌集『角砂糖の日』新装版出版記念展から生まれたカードブック

 

8位『ほんとだもん』スイッチ・パブリッシング

料理家、高山さんの幼少期を基にした絵本

 

9位『スール』三國万里子 なかしましほ(ほぼ日)

三國さん、なかしまさんによる、長津姉妹のはじめての共作本

 

10位『京都の中華』姜尚美(幻冬舎)

京都の街の底を流れる「京都の中華」という存在、空気、文化を文章で形にした一冊

 

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1位は、文芸リトルプレス『ぽかん』の最新06号です。発行人である真治彩さんの声かけによって、全国の読者たちへ文芸の愉しみを指し示してきた作家・山田稔さん、扉野良人さん、内堀弘さんをはじめとした豪華な面々が自由にのびのびとした文章を披露します。こんなに小さな冊子の中に、どれだけの内容が詰まっているのかと、毎号のことですが感服します。

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4月15日には、当店のイベントスペースにて、山田稔さんを囲む会「ぽかんのつどい」を開催。真治さん、扉野さん、当店スタッフ能邨、山田さんと気心の知れた3人が質問を投げかけ、その場で山田さん本人が答えるという、ファンにはたまらない会となりました。山田さんの著作は常時店頭に揃えておりますので、まだその作品世界に触れたことがないという方は、一度ご覧になってみては。

 

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2位は、長野県の山中にある「パンと日用品の店 わざわざ」が発行するリトルプレス『わざわざの働き方』です。出版社に頼ることなくお店でデザインや発行も担った本書では、サービスのあり方、雇用関係、組織の作り方など、表紙の洗練されたデザインからは想像もできないような、実際に店舗で経験してきた実践的な働き方が語られています。身につまされる思いといいますか、自らの働き方を改めて見つめ直したくなるような、働くすべての人にぜひ手に取っていただきたい一冊です。

 

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6位は、服部みれいさん主宰「murmur magazine」の男性版第3号『murmur magazine for men』。完売間近でしたが、GWを前に補充注文分が入荷しました。みれいさんが大きく影響されたという思想家・中島正を特集。制作中に中島さんが亡くなり、図らずも追悼特集として出版されました。あらゆる職業のなかで独立が可能なものは農業だけだという思想のもと、さながら「みの虫」のように都市から独立した生活、自然観というものを提示します。

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個人的に気になったのは、京都福知山で2015年にスタートしたドメスティックブランドiaiの居相大輝さんのページです。まるで自給自足をするようにつくられる服とはいったいどのようなものでしょうか。消防士を辞めた25歳の彼が、なぜ自ら服をつくるのか、インタビューの中で素直に語られています。同年代ということもあって、これから注目していきたい人物です。ちなみに、表紙のやぎは居相さんが飼っている「こはむ」ちゃんのイラスト。

 

今月のラインナップはいかがでしたでしょうか。

来月のランキングもどうぞお楽しみに。

(鎌田)

滞在者の眼差しが描いた生活の街。『手繪京都日和』

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昨年の秋、個人的な旅行で訪れた香港の書店の店頭で出会った一冊の本。
街を南北に流れる鴨川、すぐそばを走る京阪電車、三条駅で交差する地下鉄東西線、御池~三条~四条通と接する河原町通。見慣れた街の地図上に、その土地に住み暮らす者にとってもなじみ深い喫茶店やパン屋、食事処や雑貨店が、看板メニューやお店のロゴマークとして手描きで描かれたその表紙イラスト。
見慣れない風景に囲まれた旅先の土地で、自分の住んでいる街についての本を手に取る。それもまた旅の醍醐味と購入したその本のタイトルは『手繪京都日和』。著者は、87年生まれの台湾のイラストレーター、Fanyu。

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(観光客だけでなく京都の人々も普段づかいする喫茶店やカフェ)

 

本を開いてページを捲ってみれば、そこには本屋やカフェなど京都のカルチャースポットが好きな人々であれば必ず知っているであろういくつものお店やその内観、手づくり市や古本市といった京都に数あるイベントの光景、カフェや喫茶の独自のメニュー、目移りするような雑貨や文具などが描かれています。
レポートのような文章を添えて手描きで描かれた味わいのあるタッチや色づかいのイラストは、自分の目に映ったもの、自分が描くと決めたものへの愛着と観察のあとが感じ取れるユニークさと可愛らしさが独特の魅力で、思わず見入ってしまいます。

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(イラストのそばには買ったアイテムや目にした風景の説明や感想が)


意味を捉えられそうな漢字だけを頼りに、添えられた中文テキストを読み進めると、偶然出会った人と交わした会話、食べたものや買ったものへの個人的な感想など、それぞれのお店の歴史やイラストに描いた対象の説明とともに、様々なその場かぎりの記録がそこに書き込まれていることが分かります。
客観性に重きを置く観光都市としての京都案内は日本の書店にも数多く並びますが、このような個人的な視点からわたしたちの住んでいる街を捉えたものは見たことがありません。

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(散歩の途中に拾った草の葉をレイアウトしたページも)

 

2014年の5月、ゲストハウスを拠点に数週間京都に滞在し、買い物や外食を楽しむだけでなく、地元のスーパーに通い食材を買い込み自炊をしてみたり、散歩の途中に出会った草花を拾ったり看板に描かれたロゴを模写してみたりしながら、溶け込むようにこの街を歩き、眺め、描かれた、親密さを感じさせるこれらのイラスト日記。

観光客でも生活者でもない、滞在者という立ち位置ならではの街への眼差しと関わりかたから捉えられた「京都」は、この街の風景が日常そのものになっている住み慣れた人々にこそ新鮮に、そして同時に懐かしく映るような気がします。
繰り返しこの街を訪れる方はもちろん、この街に住み、暮らし、その折々の変化を感じてきた方々にこそ、自分たちの記憶のなかやいま眺めている風景に、滞在者の眼差しが描いた2014年の京都を重ね合わせながら楽しんでいただけたらと思います。

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(カルチャー好きにはおなじみのお店がずらり。2014年の5月にはまだガケ書房が存在していました)

 

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そして、今回の取扱いにともない、恵文社オリジナルの購入特典として、本書の前書きと後書きの翻訳テキストを収めた冊子、著者のFanyuに描いてもらった恵文社一乗寺店の外観を印刷したポストカードを作りました。
翻訳は、中国・台湾と日本の文化事業のコーディネートや、中国語の翻訳や通訳などでご活躍されているライターの小山ひとみさんにお願いしました。魅力的なイラストが随所に配された本書は、ページを繰り眺めるだけでも楽しめるものですが、今回翻訳が付いたことで、著者のFanyuの文筆家としての魅力や、この本が描かれた背景、京都と台湾の関わりがより深く理解できるようになりました。ぜひイラストとあわせてお楽しみください。

ポストカード特典用のイラストは、滞在中には当店にも訪れ、本書の中でもオリジナルのブックカバーやグッズなどをイラストで紹介してくれているFanyuに今回新たに描いてもらったもの。オリジナリティあふれるタッチが可愛らしく素敵です。こちらももちろん当店のみの特典となりますので、ぜひ手にしていただきたく思います。

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(本書には恵文社一乗寺店のオリジナルアイテムのイラストも)

 

心奪われたものをじっくり観察し、体験したことの記憶を大切にしながら、日々を記すように丁寧に描く。通り過ぎた風景を誰もが手軽に写真に収め、他者と共有することが可能となった時代に、アナログな手法を用いて街との関係を深め、記録してゆく。「手描き」と「本」はいつまでも残ると信じているイラストレーター、Fanyuが出会い、見つけ、描いた京都。
ぜひ手に取って、記憶のなかと目の前に広がるふたつのこの街を同時に歩くように、旅のお供としていただければ幸いです。

 

www.keibunsha-books.com

 

 

(涌上)