恵文社一乗寺店 スタッフブログ

恵文社一乗寺店の入荷商品やイベントスケジュール、その他の情報をスタッフが発信いたします。

ギャラリーアンフェール通信 5/29号

 

書店スペース東隣の扉を入ると、そこはギャラリーアンフェール。雑貨売り場と同じ空間にギャラリースペースがあって、だいたい週替わりでさまざまな展示を開催しています。各地の作家さん、ご近所の芸大生さん、ジャンルも絵画、写真、陶芸、洋服…毎回まったく違う作品が展示されます。雑貨売り場との間に壁などはないので、思いがけず目に飛び込んでくる展示風景に、自然と足を向けてくださる方もちらほら。 
今月から、ほぼ一ヶ月分ずつこれから始まる展示のご紹介をしていけたら、と思っています。小さな町の駅前商店街にある、本屋の片隅のギャラリーで、ちょっと特別な出会いがありますように。よろしければお付き合いくださいませ。
  
 ―思うことを― 梶原菜穂 油絵個展
2017/5/30(火)-6/5(月) 10:00-21:00(最終日は18:00まで)
雨の匂いに少しずつ夏の気配がしてきて、なんだか懐かしくてうれしいこのごろ。梶原さんからお申込みをいただいた時、深い緑が広がる絵の写真を見て、真っ先にこの雨の匂いを思い出しました。入梅を迎えるこの時期に、雨の日の景色が楽しみになりそうな、すてきな絵画が並びます。
 
「長崎 幻の響写真館 井手傳次郎と八人兄妹物語」写真展
2017年6月6日(火)-6月19日(月) 10:00-21:00(最終日は18:00まで)
家族の歴史って意識したことはありますか?私はこれまであまり気にしていなかったのですが、年老いた祖父母のぽつりぽつりと出てくる昔話を聞くたび、自分と血のつながった遠い家族たちの存在に思いを馳せたりするようになりました。遠くて近くてどこかほっとするような不思議な感覚。
そんな家族史を収めた一冊「長崎 幻の響写真館 井手傳次郎と八人兄妹物語(昭和堂)」。著者 根本千絵さんの祖父 井手傳次郎さんが昭和の初めの長崎で、16年だけ開業していた「響写真館」と、その一家の歴史を収めたこの書籍はいわば家族の結晶。戦争の足音が近づく中、家族と過ごす幸せな日常。家族の間で交わされる笑顔はなんて穏やかなんだろう。家族を思う心で溢れたすばらしい一冊です。
今回ギャラリーでは刊行を記念して、書籍に掲載された写真と、貴重なガラス乾板などを展示します。会期中には、造形作家の岡﨑乾二郎さんと著者の根本千絵さんによるトークイベントも開催。ぜひ合わせてご来場くださいませ。
書籍は店頭のほかオンラインショップでもお取扱中です。
『長崎 幻の響写真館 井手傳次郎と八人兄妹物語』
 
100匹のどやねこ展
2017年6月20日(火)-6月26日(月) 10:00-21:00(最終日は18:00まで)

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詳細:http://www.keibunsha-store.com/gallery/5680

猫好きとしてはなんとも楽しみなこの展示。なんと100匹の猫たちがぞろぞろやってきます!その名も「どやねこ」。ちょっとにくたらしいどや顔がたまらなく可愛い猫たちです。フォトジェニックな猫たちの写真もあわせて展示されるそう。楽しいYouTube動画もぜひご覧くださいませ。

https://youtu.be/k1uG3EXsIiI (外部サイトYouTube)
 
気になる展示はありましたか?お買い物と合わせて、ぜひお気軽にお立寄りくださいませ。ご来店をこころよりお待ちしております。
 
<ギャラリーアンフェールでは一年先までレンタルお申込みを受付中!>
空き状況 http://www.keibunsha-store.com/about-gallery/availability
利用規程 http://www.keibunsha-store.com/about-gallery/rules
見学、相談も随時受付けています。まずはお気軽にお問合せください。
恵文社一乗寺店 ギャラリーアンフェール(担当:上田)
E-mail:enfer@keibunsha-store.com
TEL:075-711-5919

(上田)

 

FABRIC STORE by chahat のお知らせ2

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ネパール、タイ、リトアニアなど、様々な国の人々とものづくりを行っているchahat。先日こちらの記事でもご紹介させて頂きましたが、chahatが選ぶインドのテキスタイル展を、現在ミニギャラリーでは開催しています。

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会場に並ぶ色とりどりの布は、ブロックプリントと、南インドの手織り生地の2種類に分けられます。今回ご用意頂いたプリント生地は、主にインド北西部のラジャスタン地方で作られているもので、機械織り布に、手で木版を捺しています。よく目にするペイズリー柄以外にも、さくらんぼやパイナップルなど親しみやすい図案が沢山。

手織り生地の産地は、インド南部デカン高原の近くアンドラプラデッシュ州とテランガナ州。そこにある村が布を生産する共同体になっており、糸を紡ぐ人、糸を巻く人、のりをする人、織る人と、全体で8つ程の工程を分業制で担い、原料が村を一周するうちに布が出来上がっているそうです。

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布以外に、インドの伝統衣装サリーの裾などに縫い付けるリボンも測り売りしています。帯のように太幅のものから、花をモチーフにしたミラー刺繍のものなど。会場にあるバスケットの中を探してみてください。

 

FABRIC STORE at KEIBUNSHA
日程:5月27日〜6月9日
出展者:chahat
会場:恵文社一乗寺店 生活館ミニギャラリー

今週の新入荷、5月第4週

その週に入荷した活きの良い本をご紹介する「今週の新入荷」。

5月4週をお届けします。

 

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中国の出版社Jiazazhi Pressから発行された、どこからどう見ても煙草の箱にしか見えない、ユニークな写真集『Until Death Do Us Part』。嫌煙のご時世です。こんな写真集、日本では絶対に発売できません。ビニールを剥けば、吸う前の煙草の青い匂いと、角に残った茶色いカス。興味本位で調べてみると、実際に中国で販売されている“紅双喜”という銘柄の箱で間違いないようです。誰かが吸った後のものなのでしょうか、その徹底した遊び心に惹かれます。ちなみに、まとめて注文したというのもあるのでしょうが、当店への入荷時はなんとカートンで届きました。

 

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その外見の突飛さに注目しがちですが、内容もなかなかのもの。「死が二人を別つまで」、この写真集、実はそんなロマンチックな名前をしています。少し昔の話だとは思うのですが、中国では、結婚式に訪れた新郎の男友達に、花嫁が煙草の灯をつけて回るという風習があるそうです。カップルがふざけるように煙草を吸い合い、家族もそれを見て笑い転げている、そんな至福の一場面。また、本書に収録されている写真は撮りおろしではなく、北京郊外のリサイクル工場から長年集められた写真のネガから選ばれたものです。愛と(タバコがもたらす) 死が両立する伝統に対するオマージュでもある、レトロな趣がたまらない一冊。

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話は逸れますが、煙草つながりということで。その昔“LUCKY STRIKE”のノベルティとして配布された冊子がありました。安西水丸、片岡義男らが参加したという豪華な一冊です。さすがに現在のご用意はないのですが、以前当店のオンラインショップで紹介したページが残っておりましたので、ご興味のある方は参考までに覗いてみてください。

 

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続いては、ドイツの若い出版社Tarzipan Booksが発行する『ABC Photography』。猫とネズミがキスをしているような表紙が印象的な、子供にも写真を撮る・鑑賞する楽しさを伝えようと制作された写真集です。ティルマンスやアレック・ソスら著名な写真家の作品も収録。何かを物語るかのようなドラマチックな作品に添えられた、アルファベット順のテキストも子供達の想像を膨らませます。

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ドイツでは小学生がLAMYの万年筆を当然のように使っていると聞いたことがありますが、こちらの写真集しかり、芸術や上質なものに小さい頃から触れさせようとする、ドイツの大人の姿勢を羨ましく思います。英語を勉強したてのお子さんへのプレゼントとしてもおすすめです。

 

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往年の「POPEYE」「BRUTUS」でライターを務め、以来、普段私たちが踏み込まないような、コアな世界を紹介する珍本を多数紹介している都築響一さん。今回の新刊『捨てられないTシャツ』も期待を裏切らず、興味深い内容です。バンドT、プロレス、キャラクター…、誰しもが一枚は所有しているであろう〈捨てられないTシャツ〉をテーマに70人に取材し、実際の写真とそれぞれのエピソードで紹介した一冊です。なかには、スヌーピーのキャラクターのライナスがカート・コバーンに扮したもの、宴会の場で退職祝いに贈られた手書きのものなど、いずれも一癖あるTシャツのカタログとしてもお楽しみいただけます。〈捨てられないTシャツ〉企画は、当初、都築さんが運営する有料メルマガ「ROADSIDERS’weekly」の箸休め的コーナーだったそうです。こちら、著者サイン入りのものも入荷しております。ご希望の方はぜひお早めにお買い求めください。

 

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出品者たちのプロフィールは、出身地、職業、年齢、性別が書かれているだけで、具体的な名前は明かされていませんが、なかには誰もが知る著名人も多数登場しているそうです。『TOKYO STYLE』『賃貸宇宙』など、これまでの都築ワールドから続く、詠み人知らずといいますか、奇妙な匿名性のようなもの。『捨てられないTシャツ』もまた、同じ空気を帯びた一冊です。誰でもない誰か、最小単位の対象にフォーカスをあてているにもかかわらず、その匿名性からか都築さんの著作からは無限の広がりを感じずにはいられません。

 

6月27日にはなんと都築さん本人をお招きして、刊行記念のトークイベントを開催。刊行のいきさつや裏話を存分にお話しいただきます。当日は「捨てられないTシャツ」を着用の上、ご参加ください。詳細、予約はこちらから。

 

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アメリカ・オレゴン州ポートランドのガイドブック最新版『TRUE PORTLAND 2017』(Hawthorne Books & Literary Arts)も入荷しています。本国に先駆けて、英語版が国内発売。

 

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Eテレ「ピタゴラスイッチ」でお馴染み、佐藤雅彦+ユーフラテスが手がけた写真絵本『このあいだに なにがあった?』(福音館書店)。並べられた二枚の写真のあいだに何が起こったのか、想像し、推理する楽しさを子供に伝えます。

 

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南インドの小さな出版社、Tarabooks(タラ・ブックス)が、制作するハンドメイドの絵本、最新作『太陽と月』(タムラ堂)も本日入荷。工芸品のような美しい一冊です。ご予約いただいていた方は、随時発送いたしますので、いましばらくお待ち下さい。

 

それでは、今週はこのあたりで。

来週もお楽しみに。

 

《今回ご紹介した本》

『Until Death Do US Part 3rd ed.』(Jiazazhi Press)

www.keibunsha-books.com

『ABC Photography』(Tarzipan Books)Germany

www.keibunsha-books.com

『捨てられないTシャツ』都築響一(筑摩書房)

www.keibunsha-books.com

(鎌田)

FABRIC STORE by chahat のお知らせ

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今週末から始まる、chahatによるインドのテキスタイル展。生地の一部を切り貼りしたchahatお手製DMを、店頭では配布しています。会期中はブロックプリントや藍染、機織などの生地が、会場を囲うように並ぶ予定です。昨年同様に、今回も測り売りですので、ご希望の長さでお求めいただけます。

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(以下、chahatサイトより)
何故だかわからないけど、若い頃から布が好きでした。高校時代にお小遣い貯めてアフリカの泥染めの布を買ったり、大学時代、旅先の沖縄でたまたま入った骨董屋で古布の端切れを見つけて有り金はたいて買い占めたり。あの時は東京に帰る2泊3日のフェリーの中で食べるものを買うお金もなくてひもじい思いをしました。かといって裁縫の知識もないのでその布で何かを作ったというわけではありません。ただ気に入った布を見つけると手に入れずには入れなかったのです。多分、DNAに布好きの遺伝子が組み込まれているのでしょう。大人になってもそれは変わりません。好きな布を見るとどうしても欲しくなります。相変わらず裁縫の技術はありませんが。
インドは布好きにとっては天国です。広大な国土でそれぞれの地域に根ざした、精緻で素朴で生き生きとした布たちが織られています。イギリスの植民地時代にいちどは途絶えたかに思えた布産業ですが、ガンジーをはじめとした優れた指導者のもと、織物文化の伝統は復活し、現代でも各地で手織りの生地が織られています。繰り返しますがインドは広い、一生かけてもまわる事は出来ません。それでも、毎年インドを訪れる度に、新しい布との出会いを求めて新しい街を訪れるようにしています。

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インドのテキスタイルに関わらず、模様なのか配色によるものか、その1枚が
どうしても気になり購入してしまった、そんな経験を持つ方は少なからずいらっしゃるのはないでしょうか。私も使う予定はないのに、縞生地ばかり集めていた時期があります。眺めても答えは出ないのですが、それも布の面白さなのかもしれません。今回並ぶ商品は、国内の生地屋さんではお目にかかれないものばかり。お目当の生地を探すというよりは、個性的な布との出会いを楽しんでいただけばと思います。

 

FABRIC STORE at KEIBUNSHA 
日程:5月27日〜6月9日
出展者:chahat
会場:恵文社一乗寺店 生活館ミニギャラリー

 

(田川)

今週の新入荷、5月第3週

今週の新入荷、5月第3週をお届けします。

 

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今週まずご紹介するのは、井田千秋さんの『おさまる家』。アンティークの家具、レトロな調度品、季節の草花、お気に入りの本と洋服、あたたかい飲み物と食べものを囲む食卓の情景。童話や児童文学の世界で表現されるような美しくも生活感あふれる描写が魅力的な井田千秋さんのイラストレーション。

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女の子と部屋をテーマにしたその作品は、ミリペンやシャープペンシル、鉛筆などを用いて描かれ、繰るページに次々と現れる繊細で細密なタッチからたちあがる温もりを感じさせる小部屋の数々は、懐かしい憧れのようにいつまでも心に残ります。これまでにも個展から生まれ、発表された『おしろにすんでいる』や『ふゆのいえ』などの作品集が入荷するたびに即売り切れとなってきた、当店でも非常に人気の高い井田さんの作品。

初のカラー作品となった今回の『おさまる家』、それぞれの家具や小物の存在感をより一層引き立てる淡く優しい色彩も素晴らしく、その静止した世界のなかで語られる素敵な物語を確かめるように、繰り返しページを開いてしまいます。初回入荷分は初週に売り切れ、追加入荷分も早くも在庫僅少となっています。気になる方はぜひお早めに。

 

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写真家、深瀬昌久の代表作にして日本の写真史においても非常に重要な作品集『鴉』。1986年に蒼穹舎より初版が刊行されて以来、2度復刻を遂げながらいずれも少部数のため即完売となっていた幻の作品集がイギリスのMACKより刊行されました。自分自身にこだわり続け、最後にはセルフポートレート作品に辿り着くこととなる深瀬が、自身の孤独と寂寞を重ね合わせるように撮り集めてきた鴉の写真群。空を飛ぶ飛行機の底面や風に煽られる少女の髪など、鴉の羽ばたきを思わせるようなモチーフも含みながら展開されるモノクロ写真の連続は、いずれも圧倒的な説得力を持って見る者に迫ります。初版のデザインやレイアウトを踏襲した作りも素晴らしく、保存版となる一冊です。この機会にぜひ。

 

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季刊フードカルチャー・マガジン『RiCE』の第3号、特集は「カレーライフ」。たんなる一料理にとどまらず、カルチャーやライフスタイルとして日本独自の進化を遂げてきたフードコンテンツとしてのカレーを大特集。自身にとってカレーはコミュニケーションツールであり、ライブであり、ライフであると語る、カレー研究のスペシャリスト水野仁輔さんのテキストに始まり、店主の生き方そのものが詰まったカレー店を紹介する「ライフスタイルカレーショップ」ページ、カレー好きの必携書と言われる『カレーライスと日本人』の著者、森枝卓士と、彼を父に持つ森枝幹による親子二代のテキストなどが続きます。「毎日つまんないなんて言ってる人はカレーを食べに行きゃいい。そうしたら面白いよ、絶対」「カレーって呼んだらもうカレー。服とかも「今日カレー着てるね」「お前今日カレーだね」とか」等々、気持ちのよい名言(迷言?)の数々が飛び出す小宮山雄飛×ダースレイダーのカレー偏愛対談も必読です。

また、多彩なジャンルのカレー通がお気に入りのカレー屋などを紹介する企画では、又吉直樹や佐内正史、下田昌克など錚々たる面々に混じり、恵文社スタッフの鎌田裕樹もアンケートに参加、京都のとあるお店のカレーを紹介しています。こちらもぜひ誌面にてチェックしてみてください。

 

川田絢音の詩がきわめて孤独に見えるのは、そこに描かれているのが異国や異人だからではない。川田絢音がすぐれた詩人だからだ。力や名声や「あたたかい家庭」や、ふつうの人が財産だと思うようなものから決定的にはぐれている身体ひとつの女が、どんなに強靭なことばにたどりつくか。詩のもつ孤独の力が、弱く小さいはずの人間の精神を、遠い遠い高みまでつれていく。

…詩を書いて生きていくというのは、人から遠く遠くはなれたところに飛んでいき、目のくらむような、光りかがやく孤独を手に入れることなのだろう。

(渡邊十絲子『今を生きるための現代詩』より)

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萩原朔太郎賞を受賞した2015年の『雁の世』以後に書かれた、詩人・川田絢音による詩集『白夜』も今週入荷しています。用いられている言葉のひとつひとつは決して難解ではないものの、それが詩作品として形を成すときには、一語一語が別々の輝きを放ちながら異物として身体に響くような、明確な意味としてひと掴みに読みくだすことができない世界を読み手の中に残してゆきます。約束された共感や同意ではなく、ズレや小さな差異を行間に生み出しながら、言葉を用いてより言葉から遠い場所を目指すようなその連なりは、定型化と形骸化の一途をたどる言葉のひとつひとつにふたたび水をあたえ、回復させるような力をそなえています。見知った言葉の知らない側面を見出すように、ゆっくりと時間をかけて身体に馴染ませたい詩集です。出版は、すぐれた詩集や評論を出版する書肆子午線より。

 

その他、お菓子研究家・福田里香さんの久しぶりのレシピブック『季節の果物でジャムを炊く』、間近に控えた当店コテージでのトークイベントも楽しみな奥山由之さんの『君の住む街』、編集工房ノアより届いた今江祥智さんのデッドストック本『愛にー7つの物語』、また、こちらは書籍ではないですが当店コテージにて定期的にライブを行ってくださるSSW長谷川健一さんの昨年12月に行われたライブ映像を収めたDVD『長谷川健一ノンマイクソロライブ』なども入荷しています。それぞれ、店頭やオンラインショップでチェックしてみてください。

 

それでは、また来週をお楽しみに。

 

《今回ご紹介した本》

■『おさまる家』井田千秋

www.keibunsha-books.com

■『鴉 / RAVENS』深瀬昌久/MACK

www.keibunsha-books.com

■『RiCE 03 特集 カレーライフ』ライスプレス

※後日オンラインショップでご紹介いたします。

■『白夜』川田絢音/書肆子午線

 

(涌上)

Kite新刊ツアー『山の名前がわからない』

 

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Kite(カイト)は、本の企画から制作、販売までも行うアーティストとデザイナーによるブックレーベル。3冊の新刊出版を記念した展示会を、昨日よりギャラリーアンフェールにて開催しています。

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『山の名前がわからない』
加納千尋さんによる写真集。真夜中のサービス・エリアの風景と、高速バスの車窓で構成。トラックの荷台に掛かるビニールから着想を得たというビニールクロスの表紙に、シルクスクリーンで印刷。デザインは阿部航太さん。

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『pinhole』
阿部海太さんの絵と、amakentさんの文章による絵本。部屋を覗き込むように、小窓のついた外函と、本誌の不揃いなページ、造本も含め物語であることを体現しています。

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『small trees vol.2』
辻角光志朗さんによる建物のドローイング集の2号目。前号に引き続いて壁紙を表紙としています。頭ではなく、手が書いた線を心掛けたという、意図から離れた家々。
 
新刊は内容と形態ともに異なりますが、読み手のイメージを膨らませる「余白」が共通してあるように思います。押し付けるでも、突き放すのでもない、読み手との程よい距離。ひとページずつ咀嚼して、自分の反応を試してみたい気持ちに駆られます。
 

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初日はKite書籍の装丁を手がける村上亜沙美さんの製本教室も開催。参加者の方には会場内で、凧型のしおりをつけた、空色の上製本ノートを仕立てていただきました。完成品は会場の芳名帳に使用していますので、ご来場の際はあわせてご覧くださいませ。
 
Kite新刊ツアー2017 『山の名前がわからない』
5月13日〜5月22日
恵文社一乗寺店 ギャラリーアンフェール
 
Kite の当店取り扱い書籍は こちら
 
(田川)

 

今週の新入荷、5月第2週

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月末に開催するユーリー・ノルシュテインのアニメーション上映会に向けた、機材確認の様子。(ここで流れているのは他の映画です。)

映画館のようにとはいきませんが、大画面でみる映像というのはやはり良いもので、機会があればこっそり閉店後にでも、ひとりで好きな映画をみてみようかと企んでいます。上映会、ぜひふるってご参加下さい。

 

その週に入荷した活きの良い本をご紹介する「今週の新入荷」。

それでは、5月2週をお届けします。

 

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滝口悠生さんの手書き原稿で装われた『疾駆/chic』8号。

“浅草”をテーマにした今号では、滝口さんと浅草の町を歩きます。浅草寺を通り、色街を抜け、生粋の浅草のひとにバーで会う。玉石入り乱れた、懐かしい匂いをもつこの町を歩きながら見る風景が、眼前に浮かびあがるようです。今回誌面に使用された紙は、江戸時代に盛んに作られた浅草紙を基にした、マーメイドという名前のもの。そのざらついた触感も合わせてお楽しみください。

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自転車で通りがかったときには、気がつかなかった路地があるように、バス、電車、自転車、徒歩、そのどれもがそれぞれ別の目線をもっているとするならば、滝口さんの小説から感じるのは徒歩の目線。実は少し前、滝口さんが当店に立ち寄ってくださいました。聞けば、ずいぶんな距離を歩いてこられたそうですが、その表情には微塵もそんな様子はありません。別れ際に、このあたりで昼飯が食べられるところはありますか、と尋ねられ、本当は近所の蕎麦屋を勧めたかったのですが、あいにくの定休日。代わりにフレンチのシェフをしていた店主が営むカフェを紹介し、滝口さんが去った後で、歩いて向かうにはそこまで距離があったと気づきました。それでも滝口さんは平気で歩いたことでしょう。そうやって小説が生まれるのかもしれません。

 

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絵画のような、圧倒的な表現力で、1940年代からニューヨークの街を撮り続けた写真家、ソール・ライター。一度表舞台から姿を消すも、2006年にシュタイデル社が、個人的な写真をはじめとした初の作品集を出版して以来、再び脚光を浴びます。特に日本では近年、展覧会の開催や、ドキュメンタリー映画が上映されました。注目していた方も多かったのでは。こちらの『ソール・ライターのすべて』は、書名の通り、初期のポートフォリオ、広告写真、プライベートヌード、ペインティングなど約200点とともに、アトリエ写真、愛用品などの資料も豊富な決定版。待望の国内初作品集です。話題になったこともあり、品薄になっているそうですが、どうにか初版分を店頭用にも仕入れることができました。次回の入荷はおそらく重版分となります。初版ご希望の方はぜひお早めに。

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ドキュメンタリー映画の字幕翻訳を手掛けた翻訳家の柴田元幸さんは、本書の解説で「ソール・ライターの写真集ほど、『アメリカ人』というタイトルが似つかわしくない写真集もほかにないだろう。」と書いています。ドラマチックなシーンと鮮やかな色彩。柴田さんの指摘を読むまで考えてもいませんでしたが、たしかにソール・ライターの写真には懐かしさや郷愁を認められず、半世紀以上経った今なお新しく思えるからこそ、私たちはその作品に惹かれるのかもしれません。ホイットマン、ディキンソンの二人の詩人を引き合いに出し、同時代にアメリカで活躍した写真家、ロバート・フランクとソール・ライターの関係を比較する部分など、見事な解説でした。

 

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国内外で活躍する写真家・濱田英明が撮った、人と犬との暮らし。何気なくともかけがえのない毎日。ドッググッズブランド、フリーステッチが運営する「犬と暮らすということ」をテーマにしたウェブマガジン「ONE DAY」上で連載されたものから、9組の家族を選び編まれた写真集『ONE DAY LIFE WITH A DOG』が発売。濱田さんの光り輝くような写真に、その家の人間と犬がどのように日々を過ごしているかを書いた文章が添えられています。表紙は茶色と白の二種類ご用意。愛犬の毛色に合わせてもよし、お好きな方をお選びください。

 

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90年前後生まれの書き手たちが中心となり執筆/編集する総合批評誌『ヱクリヲ』。最新6号は、第一特集「ジャームッシュ、映画の奏でる音楽」、第二特集「デザインが思考する/デザインを思考する」の二本立て。批評だけにとどまらず、インタビューやブックガイドなどを用いて、より多角的に見つめた一冊に。

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1964年、ウォーホルが初期のクライアントのために製作した幻の絵本を復刊した、『アンディ・ウォーホルのヘビのおはなし』(河出書房新社)。中毒と言っていいほどにセレブ好きだったウォーホル自身を描いたような煌びやかな一冊。

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写真家の馬場わかなさんが、自身の両親への取材を皮切りに、17組の普段の食卓を訪ね、生まれたフォトエッセイ『人と料理』(アノニマ・スタジオ)。えみおわす阿部さん、服部みれいさん、ささたくやさん…当店でもお馴染みの清々しい人々が素晴らしい料理を振舞います。レシピ付き。

 

毎週のことですが、ここに書ききれないものも多数入荷しております。

ぜひ店頭の書籍も眺めにお立ち寄りください。長くなりましたが、今回はこのあたりで。また来週もお楽しみに。

 

(鎌田)

〈今回紹介した本〉

『疾駆/chic 8号』編集・菊竹寛 (YKG Publishing)

www.keibunsha-books.com

『ソール・ライターのすべて All about Saul Leiter』(青幻舎)

www.keibunsha-books.com

『ONE DAY LIFE WITH A DOG』濱田英明(フリーステッチ)

www.keibunsha-books.com