店頭フェアのご案内。
おなじみ、ミシマ社が発行する文芸書サイズの雑誌『ちゃぶ台』。vol.4の特集は「発酵×経済」です。今回のテーマに「発酵」が選ばれるまで、ここ数年の出版、カルチャー界の蓄積があったように思えます。
雑誌『Spectator』が「発酵のひみつ」特集を組んだのが2016年のこと。翌年、ここ数年の発酵ムーヴメントのバイブル的存在になった小倉ヒラクさんの『発酵文化人類学』が刊行されました。そのなかでレヴィ=ストロースの「ブリコラージュ」という概念が紹介されています。
「神話的思考の本性は、雑多な要素からなり、かつたくさんあるといってもやはり限度のある材料を用いて自分の考えを表現することである」
フランス語でブリコラージュはDIYを指すそうです。ヒラクさんは「神話」を「発酵」に置き換えることによって、ストロースの思考を「発酵」の土壌に落とし込みました。誰かにとっては残り物の食材でスープを完成させることもDIYであり、発酵的な発想が必要になります。
発酵≒DIY?
以来、DIYによく似た文脈で「発酵」という言葉が使われる場面を目にしてきました。確かにDIY精神の基礎となった「ホールアースカタログ」やヒッピー文化にも通じるニュアンスを、この「発酵」というキーワードに見出すことができます。より手垢がついた、ディープなキーワードとして日常に取り入れてみたい、そんな思いが募るなか、今回の『ちゃぶ台』がやってきました。
小倉ヒラクさんが秋田の酒蔵をたずね綴られた文章、『発酵文化人類学』とともに発酵ムーヴメントを牽引してきた一冊『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』を書いたタルマーリーの渡邊格さん・真理子さんへの聞き書き(聞き手は三島さん)。発酵世界への導入として、ちょうど良い文量とバランスです。今朝、常連のお客さんが「ちゃぶ台はご飯を食べながらでも読めるから元気が出る」と言って買っていかれました。
興味がわくと物足りず、次の一冊に手をのばしたくなる。これぞ、雑誌の醍醐味。そこで次の一冊へと踏み込んでいただくために、「発酵」本フェアを企画しました。といいながら、純粋な「発酵」本ばかりというわけではなく、「発酵」的な発想の本を何冊かピックアップしています。これからスタッフが思いつくたびにごちゃごちゃと足されていく予定です。このコーナー自体が発酵し、旨味を凝縮していくことを願いつつ。ご来店の際はぜひ、ご注目ください。
続いて、関連イベントのご案内。
11月7日(水)。今回の『ちゃぶ台』にも寄稿されている『うしろめたさの人類学』の著者で文化人類学者の松村圭一郎さんとミシマ社代表・三島邦弘さんの対談「人間の経済を取り戻す!」を開催します。最貧国・エチオピアや中東でのフィールドワークを通じて、冨と所有の分配、貧困や開発援助などについて書いた『うしろめたさの人類学』も、発酵的発想の一冊です。当日は旧知の仲であるおふたりが考える経済のあり方を存分に語り合っていただきます。必読書を紹介するブックトークの時間も予定。紹介される本は随時店頭のフェアにも加わります。ご予約受付中。
(鎌田)