先日、当店にて多和田葉子さんのトーク&朗読会が開かれました。
ベルリン在住の多和田さんは、日本語とドイツ語の両言語で作品を発表されています。2つの言語を飛び越えて活躍される多和田さんだからこそ語ることができる”言葉”にまつわる様々なエピソードは、どれも新鮮でした。多和田さんは、ホッキョクグマが主人公の自著『雪の練習生』(新潮社)についてこのように語られています。
“日本語版と同じように主語が熊か人間かがわからないような書き出しをしたいのに、ドイツ語では、主語が人間の場合と動物の場合では使う単語が違うことがあるので、どっちかに決めないと書けない。たとえば「手」という場合にも、人間には「手」があるけれど、動物には「手」という単語を使わない。そこで、日本語で言えば人間の「手」Handと動物の「手」PfoteをあわせたPfotenhandという新しい造語を作った”
翻訳という作業には、一方の言語にはない言葉や、概念をどう表現するかという問題が伴います。造語を作るという大胆な方法は、自らの手で著作を翻訳する多和田さんにしかできない離れ業なのかもしれません。
そんなことを考えていると、面白そうな本が入荷しました。
Era Francess Sanders 前田まゆみ訳(創元社)
日本語の「WABI-SABI(ワビサビ)」のように、世界にはその言語を母国語としていない限り、掴みとることができない意味を秘めた言葉があります。そんな”Lost in translation”を集めた、絵本のような可愛らしい本です。日本語からは他にも「KOMOREBI(木漏れ日)」「TSUNDOKU(積ん読)」が収録されています。
確かに、外国の方にこれらの言葉を説明するのは骨が折れそうです。
思わず笑ってしまうような、どういった場面で使うのかよくわからない素敵な言葉が世界には無数にあるようです。気になったものを少し紹介します。
フィンランド語 “PORONKUSEMA(ポロンクセマ)”
「トナカイが休憩なしで、疲れず移動できる距離。」
マレー語 “PISAN ZAPRA(ピサン ザプラ)”
「バナナを食べるときの所要時間。」
カリブ・スペイン語 “COTISUELTO(コティスエルト)”
「シャツの裾を絶対ズボンの中に入れようとしない男の人。」
ドイツ語 “DRACHENFUTTER(ドラッヘンフッター)”
「夫が、悪いふるまいを妻に許してもらうために贈るプレゼント。」
それぞれの国の国民性がよく表れているのも面白いところです。“DRACHENFUTTER”は日本の「鬼嫁」に似ています。(直訳は「龍のえさ」だとか。)日本にも似た言葉や、捉え方がないか考えてみても面白いかもしれません。
それにしても、翻訳できない言葉を集めたこの本自体の翻訳は難しかったのでしょうか。翻訳された前田まゆみさんにもいつかお話を聞いてみたいところです。
(鎌田)
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