書籍フロアでは、写真家、真鍋奈央さんの作品集『波を綴る』の刊行を記念した小さな写真展を開催中です。
18歳の時に初めて留学し、以来数年越しにくり返し訪れてきた、オアフ、マウイ、モロカイ、ビッグ・アイランドの4つのハワイの島々。本作は、それぞれの島の風景と繰り返される住み暮らす人々との十年来に及ぶ交流を、時系列ではなくその島ごとの写真群として4冊の冊子として構成し、それらを1冊の本としてまとめ上げた美しい一冊です。
通っていた高校の恩師とその母や弟、その恋人、亡くなった友人の家族、人違いから付き合いが始まった一家、空港で偶然出会った老紳士や助けを借りた道行きの自動車整備店のオーナーなど、繋がりの中にある人々との交流や予期せぬ出会い、日系移民の子どもたちが辿ってきた体験や島に連綿と続く神事などの歴史的な側面、それらすべてを包むようなハワイ諸島の豊かな風と光あふれる風土。日本とのあいだをくり返し往還ながら、あくまで私的なパースからハワイの島々を描き出した写真群。
島の豊かさを感じさせる一葉ごとの美しさもさることながら、巻末に付された写真家自身によるキャプションが、被写体と写真家との間に存在するプライヴェートな愛着や安心に満ちた関係性、そこに流れた親密な時間を感じさせます。
飯沢耕太郎氏や写真家の有元伸也さんらが選考委員を務める、奈良の入江泰吉記念奈良市写真美術館主催の写真賞を受賞し、一冊の本として世に出ることとなった本作。糸綴じした4冊の冊子を重ね貼りつけ1冊にした大胆な造本を、白地にオーシャンブルーの題字をプリントした函で包んだ美しいブックデザインは松本久木さん。
今回の展示では、本書に収められた写真より4点の作品のオリジナルプリントを展示。観光では出会うことのないパーソナルな手触りのハワイの空気を感じていただけるのではないかと思います。
そのオリジナル作品を入り口に、新たな写真家の記念すべきデビュー作をぜひ店頭で手にとってご覧ください。
■『波を綴る』真鍋奈央 (入江泰吉記念奈良市写真美術館)
真鍋奈央写真集『波を綴る』オリジナルプリント展
2019年9月1日 - 9月23日
恵文社一乗寺店 書籍フロア 壁面一角にて
(涌上)