最寄りの本屋まで車で30分。
まだAmazonも何も無い時代。田舎の子供(私)にとって、本に触れる機会は限られていました。父親の本棚。移動図書館ひまわり号。そして地元の集会所にあった地域文庫。小学生の頃、当番だった母親から鍵をこっそり拝借しては入り浸って本を読みました。その時読んだ本のなかでも、楳図かずお先生の『まことちゃん』と、安野光雅さんの『旅の絵本』はよく覚えています。残念ながら地域文庫は無くなってしまいましたが、巡りめぐってその『旅の絵本』は私の手元に届きました。今回は『旅の絵本』について書きます。
『旅の絵本』には文字がありません。ろくに旅をしたことがない子供が、字の無い絵本をなぜあれほど楽しんで読めたのか。釣りをしている人がいたり、映画館があったり、遊園地があったり…、本当に飽きません。ドールハウスしかり、ブロック遊びしかり。子供はミニチュアの世界観が好きです。精緻な絵で描かれた人や建物を、ひとりずつ、ひとつずつ眺めるのが好きでした。当時は気が付きませんでしたが、童話の主人公や名画がこっそり描かれていたり、大人になった今も変わらず楽しめる絵本です。
1977年に刊行された中部ヨーロッパ編から、イタリア、イギリス、アメリカ、スペイン、デンマーク、中国、日本へと『旅の絵本』シリーズは続きます。そして、先日9冊目となるスイス編が刊行されました。スイスはどんな国でしょう?のどかな農場や教会。聳え立つアルプスの山々。街中に並ぶ色とりどりの国旗。パウル・クレーの家も描かれています。
刊行に際し、書店内の壁面にて『旅の絵本Ⅸ』のパネルを展示しました。実はこの壁、暖炉を模した作りになっていて、横には木のスコップも置いてあります。今回の雪山の絵を飾ると、なんだか山小屋のような、良い雰囲気が出来上がりました。
『旅の絵本』だけでなく、同時に刊行されたエッセイ『かんがえる子ども』やこれまでの絵本、著作、装丁を手がけた本も揃えました。なかでも鶴見俊輔、森毅と手を組んだ「ちくま哲学の森」「ちくま文学の森」シリーズは改めて読むと新鮮な面白さがあります。
「自ら考える」ことの尊さを子供達に語り続けた安野さんが絵本を描き始めてから約半世紀が経ちました。親から子へ、子からまたその子へ。きっと百年後も読み継がれていく幾多の本たちは、驚きと発見に満ちた名著ばかり。ぜひこの機会にその作品世界に改めて触れてみてはいかがでしょうか。
(鎌田)
展示の様子
オンラインショップでもこれまでの著作と新刊の取り扱いを増やしました。