恵文社一乗寺店 スタッフブログ

恵文社一乗寺店の入荷商品やイベントスケジュール、その他の情報をスタッフが発信いたします。

今週の新入荷、11月第2週

先日、レジをした外国の方から「僕の本を置いてくれてありがとう」と言われ、どなたかと尋ねればイラストレーターのNigel Peakeさんでした。国内版として発売されたものはまだないものの、我々スタッフの偏愛もあって彼の洋書作品集を数点店頭に並べています。京都で自分の本を見かけるとは思ってもみなかったそうで、思わず声をかけたと言っていました。クリスティやドイルの邦訳古書を10点ほど買った彼は、日本語は読めないものの、そのデザインに惹かれて少しずつその手の古書を買い集めていると教えてくれました。その日は自転車で京都を見て回っていたようです。自宅の庭や、アパートの一室から見た景色、身の回りに存在する様々な形を、端正な線で描く彼が覗く世界を、直接お話しして、少しだけ垣間見たような気がします。

 

それでは、今週の新入荷11月第2週をお知らせします。

 

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まずご紹介するのは、本日より、生活館ミニギャラリーで写真展がはじまった、きくちゆみこさんが発行する文芸誌『(unintended.) L I A R S』の最新7号。タイトルからわかるように、嘘つきたちのために作られているというこの冊子では毎号、頭の中で考えた、あるいは夢に見たような、白黒つけがたいあれこれがそのまま誌面に書かれている印象です。4月に子供が生まれたばかりのきくちさん、今号で行き着いたテーマは「生」です。おそらく、子を産んだ母親が真っ先にあじわう感覚は生命の豊かさとその不思議ではないでしょうか。今朝、きくちさんにお子さんを抱かせてもらいながら話していると、「体に中に自分と違う命が育っている」という感覚はやはり不思議なものだったと仰っていました。この本に直接、妊娠している際の体験や、子育て奮闘記のようなものが書かれているわけではありませんが、読んでいるだけで清々しい命の美しさが伝わってくる一号に仕上がっているのは、赤ん坊が持つ唯一無二の魅力によるものだと言って良いと思います。

 

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続いては、これまでの著作でも文学における書体の魅力を書いてきた正木香子さんの新刊『文字と楽園 精興社書体であじわう現代文学』に触れます。百年以上の歴史を持つ印刷所でつくられた書体、精興社書体は岩波書店をはじめとした出版社や、古くは夏目漱石、三島由紀夫、最近の作家では堀江敏幸、吉田篤弘、村上春樹の著作に用いられている書体です。こちらの本は正木さんの印象に残った精興社書体で書かれた本を挙げ、その本にまつわる書体をめぐるエピソードを綴ったエッセイ集です。普通、本の奥付に書体のことは書いていません。それゆえに、家で大切にしている本がこの書体によるものかどうか判断するのは素人目には難しいかもしれません。例えば、現代海外文学を扱ったシリーズとして際立った輝きを放つ「新潮クレストブック」。同シリーズを立ち上げた、今は作家としても活躍する編集者・松家仁之さんは精興社書体ありきで構想を練ったそうです。堀江敏幸、吉田篤弘、松家仁之というキーワードが出てきました。個人的な好みも多分にありますが、彼らはいずれもそれぞれの方法で言葉の美しさ、豊かさを伝える最前線に立つ三人だと言って良いと思います。そんな作家たちがこぞって使う書体についてだけ語った一冊。どうでしょう、興味が湧いてきませんか? 

 

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京都在住のコミックライター・ミシシッピさんが私家版として2015年に発行した絵本『パーちゃんのパーカ』があかね書房から全国発売されました。コミック、イラスト集としての性質が強かった私家版に比べて、色も増え、より絵本としての完成度を高めて再出発。着ると空を飛べるパーカ、舟にもなる帽子、かけると小さくなれるサングラス。さながら仮面ライダーのように、変身しながら、夜を飛び回る子供心をくすぐるお話です。編集を担当したのは、同じく京都に居を構えるnowakiの筒井大介さん。私家版も数冊ですが在庫しています。

 

その他にも、紀元前35万年に火を発見した人類が空を飛ぶまで。その途方もなく長い歴史の中で生まれた数々の発明を辿る仕掛け絵本『発明絵本 インベンション!』(アノニマ・スタジオ)や、『d design travel』(D&DEPARTMENT PROJECT)最新号群馬編など、諸々入荷しております。

 

それでは、今週はこのあたりで。

また来週もお楽しみに。

 

〈今回紹介した本〉

■『(unintended.) LIARS 7th ISSUE』(きくちゆみこ)

www.keibunsha-books.com

■『文字と楽園 精興社書体であじわう現代文学』正木香子(本の雑誌社)

■『パーちゃんのパーカ』ミシシッピ(あかね書房)

www.keibunsha-books.com

(鎌田)