恵文社一乗寺店 スタッフブログ

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「京都で考えた」発売前夜

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京都にどんな用事があるのかと云うと、さして用事はなく、いつもそうなのだが、ひとりで街を歩いて考えたいと思っている。ふと気まぐれが起きて仏像などを拝観することもあるかもしれないが、行くところはあらかた決まっていて、古本屋と古レコード屋と古道具屋である。あとは喫茶店と洋食屋だろうか。わざわざ京都まで来てどうして、と思う人もいるだろうけれど、じぶんにとって京都という街は、そういった店々を停留所にして、あてどなく歩きまわることに尽きる。そして、歩き回ることが、そのまま考えることになる。―― 『京都で考えた』8頁より

 

明朝から店頭に並ぶ、小説家・吉田篤弘さんの新刊『京都で考えた』。本書では、百万遍や紫野、イノダコーヒー三条支店といった具体的な場所や店の名前を出しながら、作家が京都という街で、どう過ごし、どう考えたかが綴られています。

 

懐かしい匂いのするサスペンスから、こちらまで赤面するような青春モノまで、京都を舞台に書いた小説は多くとも、吉田さんの作品で京都について書かれたことはありませんでした。(予防線を張っておくとすれば、見落としは大いにありうる。)それゆえに、吉田篤弘と京都という組み合わせは意外でしたが、先に載せた冒頭の一節を読んで早くも納得しました。本書に書かれているように、点在する店を停留所にして、街をあてどなく歩き回るという姿は、紛れもなく『つむじ風食堂の夜』や『それからはスープのことばかり考えていた』の舞台になった架空の町、月舟町を彷徨う主人公の背中と重なります。月舟町には、犬のいる映画館があり、スープの美味しいサンドイッチ店があり、無口な店主が営む食堂があります。

 

まさか月舟町とは京都のことだったのでしょうか、だとすればまさに灯台下暗しといったところで、住み慣れた街も途端に輝いて見えるようです。そして京都に住む僕らも同じく、決まった場所を回遊魚のようにぐるぐると周遊することでこの街を楽しんでいます。これは、碁盤の目の中だけで全てが完結するという京都の街の狭さに起因するのかもしれませんが、古本屋に寄って、映画を見て、珈琲を飲んで、一杯やってから帰るという一連の流れが、全て徒歩圏内で済むというコンパクトさは京都の魅力といって良いでしょう。京都の居心地が良いから吉田さんの小説を好んで読んできたのか、吉田さんの作品を読んできたから京都に惹かれて住んでいるのか、今となってはどうでもいいことです。

 

おそらく、吉田さんが使う京都という地名は“街”そのものの代名詞としての機能ももっていて、本書で語られた、時間、本、小説、温泉、店にまつわるあらゆる考えは多くの場合において他の街にも同じことが言えるかもしれません。『京都で考えた』は京都の本であって、京都の本ではなく、読む人によって印象をがらりと変える一冊だと思います。切り口の多い本というのは、総じて良い本が多いですが、私にとっては“街”の本といえそうです。これから二回、三回と繰り返して読んでいきます。

 

いよいよ明日、京都限定先行発売開始。私の他に誰もいない店内、たったひとりの前夜祭。すでに棚に本は並んでおります。皆様にとってこの本が特別な一冊になりますように。

 

(鎌田)

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■『京都で考えた』吉田篤弘(ミシマ社)

装幀:クラフト・エヴィング商會

10/12より 京都限定先行販売

10/20より 全国販売開始

www.keibunsha-books.com

 

■イベント情報:『京都で考えた』吉田篤弘(ミシマ社)刊行記念イベント 
【出演】 吉田篤弘・吉田浩美(クラフト・エヴィング商會)

【日時】 10月17日(火)19:00start / 18:30open

【会場】恵文社一乗寺店

ご予約は恵文社店頭まで、残席僅か

http://www.cottage-keibunsha.com/events/20171017/

 

■フェア情報:書店内にて吉田篤弘&クラフト・エヴィング商會著作のフェアを開催中。世田谷文学館発行『おるもすと』も久しぶりに仕入れました。