恵文社一乗寺店 スタッフブログ

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今週の新入荷、9月第2週

今週の新入荷、9月第2週をお届けします。

 

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 今週まずご紹介するのは、2015年台湾をともに訪れた二人の青年が、10日間に及んだ旅程を二年越しに振り返り、撮りためていた写真を並べながらそれぞれに旅の記憶を綴った旅行記、壇上遼+篠原幸宏『声はどこから Where is the Voice Coming From?』。

近年、日本でも注目度が年々増し、人の行き来も盛んな台湾と日本。台湾の食やカルチャースポットを紹介する書籍もここ数年、国内でぐんと増えてきました。その多くが台北や台南を中心にガイドブック的に観光地やお店を紹介したものですが、本書は、あまりこれまでには注目されてこなかった台湾東部への旅を敢行し、あくまで私的な旅の記憶として綴っているのがユニークなところ。印象的で強烈な現地の人々との一期一会の出会い、台湾人と日本人との間に生まれた自身の出自や、かつて一年間の留学生活を過ごした立場から考えることを実直かつ軽快に、時にユーモラスに綴る檀上さん。異様に解像度の高い風景描写や、2年を経てあいまいになりつつある旅の記憶に、夢や過去、フィクションなどを織り交ぜながら小説の文体で綴る篠原さん。ともに行動し、同じ場所を旅しながら、全く対照的な視点で台湾を捉えたそれぞれの文章が並置されることで、同じ場所でも人の数だけ存在する旅というものの本質に触れることができるような一冊となっています。テキストの合間には、それぞれの個性やパースペクティブが表れた印象的で美しい写真が並びます。

日常を離れた旅先での印象的な風景、その土地の名を聞くたびに具体的に思い出せる記憶を持つことの豊かさ。ぜひテキストを読みながらその旅を共に楽しんでみてください。

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そして、本書の作り手の一人である檀上遼さんが2015年に発行した、台湾での一年間の留学生活を綴った『馬馬虎虎』も今回、同時に入荷しています。こちらもあわせてぜひ。

 今月12日からは、大阪・肥後橋の「Calo BookShop & Cafe」さんにて『声はどこから』からの写真を中心とした檀上遼さんの写真展も開催されます。気になった方はぜひこちらにも足を運んでみてください。

 

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必死に気張り、恍惚の表情を浮かべ、白目を剥きながら…。写真家・木村高一郎が、まだ自分でおしりを拭けない自身の息子のトイレに付き添い、その排泄を手伝いながら、子どもが見せる千差万別な表情をカメラに収めた写真集『ともだち』。大人にとっては淡々と無意識に過ぎていく排泄行為ですら、子どもにとっては一生懸命取り組むべき時間。フロイト論ずるところの肛門期、排泄という行為を通して自分の身体と向き合う少年の一生懸命な姿は、とびきり愛らしく、見るものに微笑みを与えます。どんな文化圏に生まれ育った人にも共通の過程と行為を通じて、人間にとっての「生きる」ということをあらためて新鮮に見出させてくれるような作品集です。

 

木村高一郎さんの写真集はこの他、2年間に及び自宅の寝間の天井にカメラを設置し、父、母、子の睦まじくもユーモラスな家族の時間を連続的に記録した『ことば』も届いています。一枚では忘れ去られてしまうような写真も同じ構図から記録され続けることにより、そこに時間とストーリーが生まれるということ。『ともだち』同様、人間の本能的な営為を観測的に捉える視点にユニークな作家性が表れています。こちらもぜひあわせてごらんください。

 

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 丸亀市猪熊弦一郎美術館が発行する『私の履歴書 猪熊弦一郎』。1979年1月、日本経済新聞連載の「私の履歴書」に画家が寄せた文章を集め収めた本書は、2003年の初版発行以来、創作をする人々の間で長らく愛読されてきたロングセラー。ブルーの帯が目印だった本書がこの春、新装改訂版となり帯も一新。当店でも取り扱いを開始しました。

香川県高松市で生まれ丸亀市で育った幼少期から学童期の瑞々しい記憶の数々、画家になろうと決心し上京した美術学生時代、師と仰いだ藤島武二の言葉、パリで出会ったマティスやピカソとのエピソード、友人・藤田嗣治と過ごした疎開先のフランスの片田舎での日々、記録画のため従軍し戦地で見た光景、二十年に及んだニューヨークでの創作の日々など、七十六歳の猪熊が自らの来歴を振り返り、真摯に率直に綴った文章。

一回ごとの文量は4ページほどと少なく、さらりと読めるものながら、いずれも印象的な逸話に彩られた名文ぞろい。猪熊の文筆家としての魅力にも触れることができる一書、手に取りやすい価格ですので、ぜひ手元に置いて様々な折に開いていただければと思います。

 

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 骨董、工芸、美術、建築など独自の目線で美を追求する『工芸青花』の8号。18世紀オランダのデルフト白釉皿、白鳳時代の覆瓦、昭和のブリキ外板など、欠け、擦れた古いモノに息づく時間の美を提示する坂田和實さんの特集にはじまり、スペインのサント・ドミンゴ・デ・シロス修道院に見る中世ロマネスク美術の魅力、文部省技官として沖縄の戦災文化財を調査復元した森政三が遺した素材も出自も様々な沖縄の古裂の数々、柳宗悦の古美術蒐集家としての顔と仕事、堀江敏幸さんによるクートラス評伝連載などが続きます。

様々な書き手が、自由にその眼で捉えた美しきものを紹介する精華抄ページには、ミナペルホネンのデザイナー皆川明さんの物作りの心得、京都・東山のギャラリー「艸居」が紹介するユーモラスなポップアートなどが書や骨董などとともに並びます。

物の本質をつたえるフルカラーのビジュアル、意匠に込められた美に魅せられ、時代や場所を様々に行き巡る書き手たちのテキスト。ぜひじっくりゆっくりページを捲りながらモノに息づく時間に思いを馳せてみてください。

 

その他、写真家の鈴木大喜さんが、キリスト教の聖地であるスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路を歩き、出会った人々や風景を撮り収めた『Camino de Santiago』、絵本作家・酒井駒子さんが筑摩書房のPR誌で二年間にわたって連載した絵と言葉を一冊にまとめた作品集『森のノート』、今までにない音楽、あたらしい医療の可能性をめぐる大友良英さんと稲葉俊郎さんの対話集『見えないものに、耳をすます』、大人と子どもが過ごす大切な時間を描いた絵本、小沢健二と日米恐怖学会『アイスクリームが溶けてしまう前に(家族のハロウィーンのための連作)』なども入荷しています。

 

それでは、また来週をお楽しみに。

 

《今回ご紹介した本》

■『声はどこから Where is the Voice Coming From?』檀上遼 篠原幸宏

■『ともだち』木村高一郎/リブロアルテ

■『私の履歴書 猪熊弦一郎』丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

■『工芸青花 8号』青花の会/新潮社


 

(涌上)