恵文社一乗寺店 スタッフブログ

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今週の新入荷、7月第2週

今週の新入荷、7月第2週をお届けします。

 

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鳥取を拠点に、厳選した自然の素材を用いた有機的なファッションプロダクトと表現を行うアパレルブランド、「THE HINOKI」。今週まずご紹介するのは、本ブランド初のコレクションブック『THE HINOKI Yuhki Touyama 2016-2017』です。

街や自然の中でも馴染み機能すること、時間をかけて着られること、地域の職人たちと共同しながら物づくりの循環を生み出すことなどを心掛けながら制作される、THE HINOKIの中性的で美しい衣服。それらに袖を通したモデルたちを撮り下ろしたのは写真家の頭山ゆう紀さん。本書が何よりユニークなのは、その性質や造形、あるいはブランドイメージを分かりやすく伝えることを主眼とせず、衣服をあくまで写真家の世界観を伝えるひとつの要素として提出していること。

鬱蒼とした森や廃墟化した人工物、時には墓地を背景に、時には摺りガラス越しに、光だけを当てるのではなくむしろ影を多く取り込みながら、日常の延長にドラマティックなイメージを展開する。煌びやかなファッションフォトの世界を大きく逸れ、広告としてはいくぶん迂遠な道を歩む選択そのものに、ブランドの美意識と思想が表現されています。

これまでにも作家性の強い様々な写真家とコラボレーションしてきたTHE HINOKI。これからどういった写真家とのコラボレーションが見られるのか、プロダクトはもちろん表現の場としての展開も非常に楽しみなブランドです。

 

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東京・湯島の輸入雑貨店nico店主による『ロシア冊子』。10年以上、買付旅行に訪れ続けているロシア・ハバロフスクで出会った光景をまとめた小さくてかわいらしい一冊です。街中を走るクラシックカー、集合住宅の窓枠やガードレールのさりげない意匠、色彩豊かに賑わう市場、花柄のワンピースにスカーフを頭に巻いたたくさんのおばあさんたち。その場所だからこそ楽しむことのできる風景をそっと教えてくれます。目印となる表紙や本文イラストは、当店でもおなじみのイラストレーター、ひろせべにさん。

10年のあいだにロシアの街で出会ったスカーフを巻いたおばあさんの写真だけで編まれた同じ著者による『スカーフ冊子』も同時入荷しています。こちらもあわせてぜひ。

 

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ドーナツの穴には何があるのか。そもそも穴は「ある」と言えるのだろうか。考えたとて実生活においては即時的には何の足しにもならないであろうそんな疑問を発端に、ドーナツとドーナツの穴について楽しく大真面目に考える異色の論考集『失われたドーナツの穴を求めて』。

執筆に集ったのは、歴史学、経済学、コミュニケーション学、数学、言語学、哲学、工学などを専門とするリサーチフェロー(研究者)たち。穴がいつから空いているのかを巡り1800年代のレシピを解読しながら再現してみたり、ドーナツの穴の経済的価値を論じてみたり、競馬や宇宙空間、はたまた会話時の座り位置における「穴」の考察までを展開し、「学問する」ということの本来的な楽しさや、同じテーマに全く異なるアプローチで挑むそれぞれの専門分野の差異そのものの興味深さを伝える一冊です。知りたい、という純粋な気持ちを梃子にして過去の時間に出会い、繋がれてきた思考のバトンに触れ、思いもよらなかった遠い場所にまで辿り着く。読みながらそんな追体験がしばしば起こるのも地道な学問の世界のプロフェッショナルたちのテキストによればこそ。

ドーナツにちなみ、書籍の全ページを貫く穴が穿たれたブックデザインも秀逸です。ぜひ手にとってご覧ください。

 

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60年代末、伝説的写真同人誌『プロヴォーク』の刊行に関わり、73年にはそれまでの自作への批判を展開した『なぜ、植物図鑑か』を上梓、病に倒れ記憶の大半を失ったのちもカメラを通じて自らと世界を繋ぎとめながら精力的に活動を続けた写真家、中平卓馬。

森山大道、荒木経惟、東松照明ら戦後日本の代表的な写真家たちのなかでも理論家としてひときわ異彩を放ち、ホンマタカシら次の世代の写真家たちにも多大な影響を及ぼす存在です。2015年に没した中平が、最晩年の2009年より2011年の間に旅した四度の沖縄旅行の中で撮影した写真群を収めた作品集『沖縄』が入荷しています。

彫像、木々、鳥、看板、猫、岩礁、屋根・・・。風景から選ばれた対象を断片化し、事物そのものに肉薄するような縦の構図で撮られた写真の一葉一葉からは、偶然の産物のような世界の鮮やかさと、フレーミングが世界を規定する写真芸術の本質が浮かび上がってきます。ハードカバーの造本、倉石信乃氏による精緻な中平卓馬論も収めた本書。600部限定の非常に貴重な作品集です。お求めの方はぜひお早めに。

 

その他、「アンドレ・ブルトン没後50年記念展」に来日したアニー・ル・ブランの講演記録『シュルレアリスムと抒情による蜂起』、雑誌「GINZA」や印象深い書籍装丁の仕事などを多く手掛けるデザイナー田部井美奈さんのZINE『TOFU』、京都人とともに京都をめぐったグレゴリ青山さんのコミックエッセイ『深ぼり京都さんぽ』、ライター佐久間裕美子さんのペンによるNYのシングルウーマンたちにまつわるエッセイ『ピンヒールははかない』なども入荷しています。ご来店の際はぜひそれぞれをチェックしてみてください。

 

それでは、また来週をお楽しみに。

 

《今回ご紹介した本》

■『THE HINOKI Yuhki Touyama 2016-2017』

■『ロシア冊子』ニコニコ出版局

■『失われたドーナツの穴を求めて』芝垣亮介・奥田太郎 編/さいはて社

■『沖縄』中平卓馬/Rat Hole Gallery


(涌上)