恵文社一乗寺店 スタッフブログ

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今週の新入荷、6月第3週

今週の新入荷、6月第3週をお届けします。

 

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短歌の絵を一日一枚描き、それらをまとめた『食器と食パンとペン』でもお馴染みのイラストレーターである安福望さんと、短歌や川柳の創作や句集のあとがき、書籍の挿絵や読書感想など多岐にわたる文筆活動を行う柳本々々さんが、SNSのダイレクトメールでやり取りした会話の数々を収めた『きょうごめん行けないんだ』。その始点から終点までを順に掲載するわけではなく、端切れのような200以上の会話の断片に見出しをあたえ、それらを五十音順に並べることで、項目ごとどこからでも読み進めることができる辞典のような体裁をまとった本書。

短歌や川柳の話題はもちろん、小説やコミック、映画やイラストなどたくさんの固有名詞が頻出する内容そのものも楽しいのですが、本書の最大の魅力は、二人の個性的な言語感覚や世界の捉えかた、そして程よく力の抜けたやりとりの妙。個人的な体験や感覚を安易に言語化したり一般化したりすることなく、自分のなかで大切に育て表現することを選んできた二人だからこそ生まれるユニークなやり取り、一貫して流れる互いへの信頼と尊敬の態度からはしみじみとした気持ちの良さを感じます。前後を飛ばすように突然本質的なことを語りだしたり、本題に入る前のマクラの部分で途切れてしまうようなやり取りがあったり、軽やかで気ままなその会話は、偶然街で耳にした忘れられない言葉の断片のようでもあり、ついつい自分も心の中でそのトピックについて思案し、時にそこに割って入りたくなるような楽しさをそなえています。それぞれの項目にはそのタイトルにちなんだ安福さんのイラスト、ページの合間では柳本さんによる短歌や詩、テキストなども収録され、2段組み270ページ超と読みごたえも十分。誰かと話すことで初めて自分の感覚を確かめる。誰しもが覚えのある会話することの豊かさを取り出すように、いつも鞄に忍ばせ、ふと開いたページに目を落とす。そんな楽しみ方をおすすめしたい一冊です。

 

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旅やお散歩、お菓子や手みやげ、クラシックホテルや古い建築物など、独自の美意識のもと乙女心をくすぐる様々なテーマを本にまとめてきた文筆家、甲斐みのりさん。甲斐さんの最新刊『お菓子の包み紙』は、20年以上に及び蒐集し大切に保管してきた膨大な包装紙のコレクションをテーマごとにセレクトし一冊にまとめたもの。明治や大正から続く老舗の洋菓子店や和菓子店のレトロな包装紙。東郷青児、芹沢銈介、棟方志功、柳宗理、手塚治虫、安野光雅、山脇百合子など、画家や染色家、デザイナーや漫画家、イラストレーターに絵本作家まで、作家別に厳選された個性的な包装紙。開運堂や虎屋、資生堂パーラーなどの誰もが目にしたことのある名店の美しい包装紙や外箱などを掲載した本書。パラパラとめくり眺めているだけで旅に出たくなるような素敵な一冊です。

ちょうど先週、長崎から来てくださったお客様に頂いた長崎銘菓「クルス」の包装紙も掲載されており、それが"童心の画家"鈴木信太郎の手によるイラストであることを本書を通じて知りました。偶々の嬉しい連関に、その銘菓と画家の名を忘れることはないと思います。ぜひ手元に置いて様々な土地に出かける際の参考にしてみてください。

 

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写真家、ホンマタカシが17年来撮り続けるハワイ・オアフ島の波。変わらないようでいてすべて異なるその動きを収めるプロジェクト[NEW WAVES/新しい波]。東京・POSTで現在行われている展覧会の図録となる冊子が入荷しています。4作品のプリントの上部をページに貼り付け収載するという写真ならではの見せかたがユニークで美しい。反復的な記録のなかからしか発見されない、反復のように見えるもののなかに存在する差異。意図をこえた世界に触れる写真家の実験的な試みをフィールドレコーディングに喩えたセルヴァ・バルニによるテキストも、本シリーズの特性と画期性を示唆しています。こちらは部数限定のアーティストサイン本です。ぜひお早めに。

 

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“普通に読める日本語の雑誌”を標榜する『トラベシア』。映画について色んな人に話してもらうトークイベント「映画のポケット」などを主宰してきた鈴木並木さんが昨年立ち上げたテキストメインのリトルプレス、創刊から10か月を経て第2号がリリースされました。有名無名を問わず、自ら惚れ込んだ書き手に直接原稿を依頼し、集まった長短さまざまなテキストを一冊にまとめる。シンプルでありながら個人誌であることの自由と醍醐味がたっぷりと詰まった読み応えある編集です。

今回の特集は「労働」。自らの労働観を寄せたもの、現在の仕事にいたるまでを振り返るようなもの、連想したことを書き連ねたもの、そもそもそんなテーマなど存在しないかのように好きなように書かれたもの、etc…。エッセイや日記、小説など、発行人のラディカルな編集姿勢に呼応するかのように集った様々な形式のテキスト群は、ひと口に言い表すことのできない魅力をそれぞれに放ちます。自分が知っている面白い人々を少しでも広めたい、雑誌を作ることの発端にあるそんな思いを少しも曲げることなく作られる個人誌は無骨でありながらこんなにもおもしろいものだったのだということをあらためて思い返させてくれるような一冊。有名人の名に安心を委ねることなく、どんな来歴と経験を持っているのかも知らない、会ったこともない誰かのテキストをずんずんと読んでみる。そんな過程から気に入りの新たな書き手を見出す、それもまた読書する者の贅沢と醍醐味でしょう。ぜひ気になったタイトルページから無心に読み進めてみてください。

 

その他、柴田元幸さんが責任編集をつとめる文芸誌『MONKEY』vol.12特集「翻訳は嫌い?」、四国の霊場88ヶ所を巡り礼所寺院や土地の風光などを撮り収めた写真家・尾崎ゆりの作品集『88』、劇団「地点」が北白川に構えるアトリエ兼劇場「アンダースロー」が投じる雑誌『地下室 草号』の第3号、グラフィックデザイナー・中村至男による視点のユニークな絵本『たなのうえひこうじょう』なども入荷しています。

 

それではまた次回をお楽しみに。

 


《今回ご紹介した本》

www.keibunsha-books.com

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(涌上)