恵文社一乗寺店 スタッフブログ

恵文社一乗寺店の入荷商品やイベントスケジュール、その他の情報をスタッフが発信いたします。

今週の新入荷、5月第1週

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「Spectator」や「ソトコト」などで特集が組まれ、オルタナカルチャーの文脈でも注目される発酵。今週まずご紹介するのは、その両誌に寄稿するなど、いま最も注目される著者による発酵カルチャーブック『発酵文化人類学』。

「発酵デザイナー」という異色の肩書を持つ著者、小倉ヒラクさんは、大学で文化人類学を学んだ後、フランスで美術を学びデザイナーとして独立、発酵食品のデザインを多く手がけるうちに発酵に魅せられ、三十代で東京農業大学に入りなおして微生物の世界を勉強したという来歴の持ち主。それまでの経験がそのまま仕事になり、一冊の本としてまとめ上げられた本書は、発酵文化創世の物語から、文化人類学者レヴィ=ストロースの「ブリコラージュ」の援用、各地で伝承されてきた郷土文化のリサーチや、ヒトと菌をめぐる贈与経済のコミュニケーション、醸造現場で働く人々のワークスタイルから見出すビジネスモデル、バイオテクノロジーと発酵文化から照射するヒトの文化の未来、などなど実に多様なトピックを経巡りながら、あくまで読みやすさを意識した語りかけるような文体が魅力です。発酵はあくまで人間が見出した文化であるという語り口を基底に、これからの社会の在り方にまで話が及ぶなど、様々な体験をもとにした総合的な知が詰まった面白くてためになる一冊。

ヒッピームーブメントを牽引した「Whole Earth Catalogue」を想起させるような、書棚のなかで一際映える本の顔もまた印象的です。

 

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先日、こちらの記事でもご紹介した台湾のイラストレーター、Fanyuの『手繪京都日和』。2014年の5月、ちょうど3年前にこの街を訪れ、ゲストハウスに滞在しながら巡り、暮らし、手描きに残した日々の記録としての京都ガイドブック。

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みやこメッセでの春の古本市や、恵文社からほど近い高野川沿いにあった喫茶店「狩人」(昨年閉店されました)など、非常にローカルな場所で偶然目にした人々の日常の姿をスケッチしているのも興味深く、記録としての意味を感じさせてくれます。描くことを通じて未知の場所や人々との関係を取り結び、自らの経験を咀嚼し表現する。彼女がこの本で示しているのは、旅をすることの醍醐味や滞在者として街に関わることの楽しみそのもの。自分たちの住み暮らす街がどのように描かれているかという観点からはもちろんのこと、自らが滞在者となったときにどのように未知の土地や未知の光景と関係を結べるのだろうかということも思わず考えてしまうような一冊です。前書きと後書きを翻訳した当店オリジナルの冊子では、そんな彼女の旅への所感も語られています。ぜひ手にしていただきたく思います。

 

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翻訳家・斎藤真理子さんらが中心となって新たに創刊された、韓国を語らい・味わい・楽しむ雑誌『中くらいの友だち』。在韓日本人や在日韓国人をはじめ、家族や仕事の関係で韓国に所縁ある人々がひろく執筆に関わり、ワンテーマで括ることをあえてせずに一個人の目線からそれぞれに韓国にまつわるエッセイを寄稿する。そんな雑誌作りの前提に新鮮さを感じます。食や建築、暮らしなどの文化的な側面を切り取ったものから、両国を行き来し、関わる人々の体験や記憶を綴ったものまで、様々なトーンを持ったテキストのそれぞれは韓国に関する豊かなイメージを読み手のうちに新たに残してゆきます。長い時間をともに過ごし、いくつもの小さな体験や知識を共有することでそれまでに知らなかった友人の横顔や魅力を垣間見る瞬間があるように、一筋縄ではいかない多声的な文章群に触れるうちに見出される韓国の新たな横顔や魅力は、一人一人が政治やイデオロギーを超えてより深い関係性を育てていくきっかけともなることでしょう。今後の続刊も楽しみな雑誌です。

 

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つげ義春や横尾忠則など、シュールで不条理な夢の世界に魅せられた数多くの才能ある絵描きたちに連なるように、夢への並々ならぬこだわりを持つ一人の新たな作家の漫画作品集が届きました。高野紗織さんの自費出版ブック『夢の本』。音楽を視覚化する譜面ドローイングや小さいテレーズというバンドのドラムなどで活動する彼女が、18歳よりつけ続けていたという夢日記を一冊にまとめた作品集です。

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覚醒しているときには間違っても繋がらないもの同士がいとも簡単に、あたかもそれが当然のように繋がってしまう、奇妙で不思議な味わいを持った夢の論理が、圧倒的な表現力で見事に描かれています。描いた夢への解説、十年に及び書き連ねられてきた夢メモからのお気に入りの抜粋なども併録した本書。全編手描きの眩しくも才気走った描写の数々に魅了されます。ページを繰ることでそのドアが開くもうひとつの世界をぜひ体験してみてください。

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著者の高野さんのご厚意により、先着で著者サイン本、ポストカード特典もお付けします。おはやめにぜひ。

 

その他、台湾のアーティストユニット「男子休日委員会」が2013年に本国で出版した『左京区男子休日』の日本語訳版『台湾男子がこっそり教える!秘密の京都スポットガイド』、2017年にトリノで行われたブルーノ・ムナーリの大規模な同名回顧展の公式図録『Bruno Munari Artista totale』、写真家のホンマタカシによるドキュメンタリー作品群の特集上映パンフレット『ニュードキュメンタリー映画』、アウトサイダー・キュレーター櫛野展正さんが出会った街の表現者18人の生きざまに迫り記録した『アウトサイドで生きている』なども今週入荷しています。ご来店の際にはそれぞれをチェックしてみてください。

 

それでは、また来週をお楽しみに。

 

《今回ご紹介した本》

www.keibunsha-books.com

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(涌上)