恵文社一乗寺店 スタッフブログ

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今週の新入荷、4月第4週

今週の新入荷、4月第4週をお届けします。

 

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今回まずおすすめしたい一冊は、西荻窪の雑貨店「FALL」店主・三品輝起さんの単著で、個人出版社夏葉社の新刊『すべての雑貨』。実際に雑貨店を経営する中で浮かび上がる、独自の雑貨論、消費論ともいえる著者の思考が語られた新しい風を感じるエッセイです。

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わざわざ比較するのも無粋でしょうが、この『すべての雑貨』は、同じく夏葉社から出版されているホホホ座・山下賢二さんの著書『ガケ書房の頃』と似ているようで、全く性質の違った本といえるかもしれません。山下さんが自身の経歴と店舗経営で得た経験を、さながら青春小説のような筆致で書きあげたのであれば、三品さんはそれを、地に足を着けながら、より外向的な目線で、雑貨、店というものがどういった濁流のなかに存在しているか、滔々と語っています。それでも回りまわって、歩いている方向はきっと同じで、どちらも清々しい。極小出版社である夏葉社からこの二冊が出版されていること、素晴らしいとは思いませんか。

雑貨を扱う本屋で働いているからか、もしくはそもそも書籍というものが雑貨化しているのか。どの頁の文章も確かな必然性をもって、私に突き刺さります。雑貨店や本屋で働く人間だけでなく、あらゆる小売、あるいは消費というものに携わる全ての人に、ぜひ読んで頂きたい一冊です。

 

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夏葉社からもう一冊。内田百間、志賀直哉、上林暁、香月泰男、尾崎一雄、谷内六郎ら、新潮社の文芸編集者として、錚々たる作家の本を手掛けた昭和の目、山高登。『東京の編集者』は、御年91歳の山高さんに、当時のこと、戦争のこと、写真のことを、代表の島田潤一郎さんがたずねたインタビューをまとめたものです。大の写真好きだという山高さんが撮った、昭和の風景写真も随所に散りばめられています。

 

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オースター『ガラスの街』、ユアグロー『真夜中のギャングたち』、シーラッハ『カールの降誕祭』…。柴田元幸さんの訳書を中心に海外文学に親しい読者であれば必ず目にしたことがあるノワールなタダジュンさんの装画たち。東京のSUNNY BOY BOOKSから発行された、タダジュン初の作品集『Dear, THUMB BOOK PRESS』も注目の一冊です。

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こちら、単なる作品集ではありません。カフカ、ヘミングウェイ、ベケットらの装画を手掛けてきたという架空のプライヴェート・プレス〈THUMB BOOK PRESS〉、そしてその主宰であるサムという人物。彼が遺した数々の出版物を紹介するという体で編まれた、壮大な遊び心の詰まった図録です。後半のページに登場するサムのポートレートは、タダさん自身が半年かけて髭をのばし続け撮ったものだと、先日こっそりメールで教えてくださいました。柴田元幸、小野正嗣、植田真ら、読者を騙す共犯者ともいえる寄稿陣の文章も魅力的です。

 

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DIC川村記念美術館にて開催される「ヴォルス―路上から宇宙へ」展の公式図録も入荷しています。写真を撮り、詩や音楽を嗜み、独学で絵を描く。第一次大戦直後のドイツに生まれた希有な芸術家、ヴォルス。38歳で若すぎる死を遂げたヴォルスの略歴をなぞりながら、写真、水彩画、油彩画、銅版画を、その独自性を主眼に置き、解説しています。

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サルトルらにも評価されたという絵と、羽根を毟った鶏をモチーフにした特異なものから、パリの何気ない街角を切り取った情緒あふれるものまで、後に移り住んだフランスで撮られたフォトグラフ。同じ時代にパリで活躍した著名な写真家たちと比べても引けを取りません。赤い綴じ糸、ざらついた厚手の表紙、造本も美しい一冊。昨年、同館で開かれた、サイ・トゥオンブリー写真展図録も引き続き取り扱いしております。

 

編集長の服部みれいさんが、大きく影響されたという思想家・中島正を特集『murmur magazine for men』第3号(エムエムブックス)。陶器やファブリック、版画などを制作するアーティスト、鹿児島睦さんがカリフォルニアのセレクトショップ「Chariots on Fire」に依頼されつくった作品をまとめて紹介する『Makoto Kagoshima Ceramics』(Chariots on Fire)、なども今週入荷しています。

 

それでは、来週もお楽しみに。

 

(鎌田)

 

《今回紹介した本》

『すべての雑貨』三品輝起(夏葉社)

www.keibunsha-books.com

『東京の編集者  山高登さんに話を聞く』(夏葉社)

www.keibunsha-books.com

『Dear, THUMB BOOK PRESS』タダジュン(SUNNY BOY BOOKS)

www.keibunsha-books.com

『WOLS ヴォルス―路上から宇宙へ』DIC川村記念美術館(左右社)

www.keibunsha-books.com