恵文社一乗寺店 スタッフブログ

恵文社一乗寺店の入荷商品やイベントスケジュール、その他の情報をスタッフが発信いたします。

今週の新入荷、4月第1週

一気に春めいてきたここ数日。今日はあいにくの雨でしたが、天気の良い日は陽が落ちても肌寒さを感じることは日に日に少なくなり、開け放した書籍フロアのドアの向こうから聞こえてくる近所の子どもたちの喚声や鳥のさえずりに季節の変化を感じ胸が躍ります。本と珈琲、余裕があればサンドイッチなんかも携えて、鴨川沿いや御所、植物園へと出かける晴れた休日を過ごすのもこれからの季節の楽しみのひとつですね。

 

それでは、今週の新入荷、4月の第1週をお送りします。

 

f:id:keibunshabooks:20170407204318j:plain

2009年、長野県東御市の御牧原で開業したパンと日用品のお店「わざわざ」。公共の交通機関では訪れることが出来ず、実店舗の営業は週3日ながら、全国に多くのファンを持つこの小さなお店の店主・平田はる香さんが、これからともに働く人へ伝えるつもりでお店の働きかたの方針と経営の考え方を綴った冊子『わざわざの働きかた』。

f:id:keibunshabooks:20170407204620j:plain

遠方からわざわざ来てもらう価値を創出するサービスの心得、雇用やマニュアルについての試行錯誤、製造と出荷のバランス、地域の人々との繋がり、単純作業の心構えやチームで共通の意識を育むための手だて、夫婦で子育てをしながら働くということ、具体的な経営理念や共有するための規範…。

夢や幻想を振りまくわけでは決してなく、現実に直面してきた問題点や課題を交えながら、折々の実感を載せたテキストは、日々の仕事と生活をあらためて捉えなおすきっかけを読者に与えてくれるようなすこやかさを纏っています。 

f:id:keibunshabooks:20170407204713j:plain

写真やデザイン、発行までのすべてを自分たちで手がけ、たった一週間ほどで初版2000部(!)を売り切ったという本書は、何かを作り提供するということの実践的な挑戦でもあり、提示された小さなチーム単位ならではの可能性のヒントは、お店を経営される方や出版に関わる人々にも広く参考になるのではないでしょうか。店頭にお越しの際はぜひ手に取って、しなやかな意志に貫かれたそのテキストと美しい写真に目を落としてみていただきたいと思います。

 

f:id:keibunshabooks:20170407205110j:plain

日進月歩のテクノロジーにより変化し続けるコミュニケーション、人と人との関わりや絆の形。アート/ファッション/カルチャーの文脈から関係性や絆を捉え直す新創刊のバイリンガルマガジン『PARTNERS』。

フォトグラファーとその息子、恋人同士の画家たち、コンテンポラリーアーティストとそのコラボレーター、ポップスターとソングライター、音楽家と彼の楽器…。インタビューを中心に、生きる糧や時間を共有するパートナーシップの様々なバリエーションを提示した一冊です。

f:id:keibunshabooks:20170407205139j:plain

美しくクールなアートワーク、雑誌としては珍しい横長の誌面で展開されるデザイン、最新の情報を扱うだけではない一捻りを加えたカルチャーページや現代社会への考察を展開するテキストコラムなど、複合メディアとしての雑誌のフィジカル性、その意義や魅力を思い起こさせてくれるような意欲的な作りです。

一切広告を挟まず、現代的な雑誌のあり方を模索する作り手とそこに集ったクリエイターやエディターたちのパートナーワークから生まれた本誌そのものが、雑誌の掲げるテーマを体現した魅力的なサンプルと言えるかもしれません。

 

f:id:keibunshabooks:20170407204752j:plain

吉祥寺、恵比寿、代田橋、西荻窪、代々木、新宿、武蔵小山…。三人の編集者が東京の街を渡り歩き克明に日付と時刻を記録しながら待ち合わせた人々へ敢行したインタビューを一冊にまとめた『なnD』最新5号も今週の入荷。

5号目にして初のカラー表紙となったカバーに記された副題は「3月 東京」。

文筆家、アーティスト、ミュージシャン、映画監督、イラストレーター、デザイナー、編集者、お店の店主など、ひろくカルチャーに関わる人々27名が登場し、普通であれば記事起しの際にその痕跡を抹消されがちな場所性や時間性がむしろ前面に押し出されることで、繋がれていくバトンを追いかけるように、その場そのタイミングだからこその出会いを追体験するように読み進めていく構成となっています。別々の話者や筆者から「小沢健二」というワードが飛び出すのも、2017年3月の東京だからこその共時性。

fuzkue阿久津隆さん、Sweet Dream Press福田教雄さん、スタンドブックス森山裕之さん、FALL三品輝紀さん、迫川尚子さんや近代ナリコさんなどインタビュー外の記事を寄せた方々のラインナップに3人の編集者が集って作られる『なnD』のアイデンティティを感じ取る読み手の方々もきっと少なくないはずです。カルチャーシーンの豊かさはそのまま懐の深い東京という街の魅力にもなるのだと知るとき、自分たちの住む街のことにも思いは及んでゆきます。小ぶりな文庫サイズも手に取りやすく魅力的で、街に出て喫茶店や電車の中で読みたくなるような軽さが心地よい一冊です。

 

その他、復刊版『角砂糖の日』から新たに生まれた山尾悠子さんの短歌と山下陽子さんの挿画によるカードセット『跳ね兎』、記憶に沈み込んだドラマティックで刹那的なイメージの断片を差し出すような草野庸子さんのフォトブック『EVERYTHING IS TEMPORARY(すべてが一時的なものです)』、大自然を歩き釣りに興じた著者GNU/長沼商史さんの3年に及ぶロングディスタンスハイキングの記録本『釣歩日記』、「団地」をテーマに写真やテキスト、漫画など今をときめく作家たちが展開する8つのストーリーを収めた東京R不動産によるコンセプトブック『団地のはなし』なども今週入荷しています。いずれもユニークな書籍ですので店頭でぜひ手に取ってみてください。

 

それでは、来週の新入荷もお楽しみに。

 

《今回ご紹介した本》

『わざわざの働きかた』パンと日用品の店 わざわざ

www.keibunsha-books.com

『PARTNERS #1』kontact

www.keibunsha-books.com

『なnD 5』nu

www.keibunsha-books.com

 

(涌上)