恵文社一乗寺店 スタッフブログ

恵文社一乗寺店の入荷商品やイベントスケジュール、その他の情報をスタッフが発信いたします。

今週の新入荷、3月第2週

毎週金曜更新の「今週の新入荷」、3月第2週の新入荷をご紹介します。

今週まずご紹介するのは、老いにまつわる"人・物・事"をセレクトした情報誌『PERSPECTIVE from an oblique』。

f:id:keibunshabooks:20170310195211j:plain

介護福祉の現場で実際に働いてきた編者が、老人ホームの入居者が発した一言を発端に考え、向きあってきた「老いに関する歴史」を取り上げたこちらの創刊号。
冒頭より、「古今和歌集」や世阿弥の「風姿花伝」などの古典、深沢七郎の「楢山節考」といった文芸作品や、江戸時代に生きた二人の医師、香月牛山と杉田玄白が遺した文章などを紹介しながら、この国における老いの文化と様式を辿ります。また、文献にあたるだけでなく、棄老(=おばすて)伝説発祥の地である長野県千曲市や、今村昌平版の映画『楢山節考』のロケ地となった真木集落を実際に訪れ、旅の途中に出会った人々との交流などもレポートしてゆくページも続くことで、老いに関する歴史と現在との繋がりや対比を感じ取れる構成となっています。後半の特集では、社会がどのように老いと関わってきたか、現在の介護保険制度に至るまでの道のりを時代ごとの芸術などとともに丹念に辿ってゆく特集を展開しています。

f:id:keibunshabooks:20170310195630j:plain

分かりやすい答えなど存在しないトピックであるからこそ、様々な文献にあたりながら慎重に実感をのせてゆく編者のテキストは、完全な主観でも客観でもない"斜めからの視点"という誌名通りのバランス感覚を感じさせ、豊かなビジュアルと洗練されたレイアウトで展開される雑誌的構成は、少子高齢化社会を生きるわたしたちにとって身近でありながらどうしてもシリアスにならざるを得ない「老い」というテーマの再考を軽やかに促します。今後の刊行や特集内容にも大いに期待したい情報誌です。
書店では、本誌に掲載された文献を中心に、老いについて考えるヒントとなるような書籍を集めたフェアを近日より開催予定です。こちらもぜひお楽しみに。

 

f:id:keibunshabooks:20170310195244j:plain

日本の建築の大家、香山壽夫が1964年の渡米以来、アメリカやヨーロッパを巡り撮影してきた膨大な数に及ぶ建築写真。そのなかから厳選された36点の写真と、写真のなかの建築について綴った文章を収録した『建築のポートレート』も今週の入荷です。

古代の神殿から、中世の教会や修道院、洞窟住居、近世になって生まれた都市や荘園、近現代の図書館や社屋まで、時代や風土も異にしながら常にそれを必要とした人々や先行する文化から生まれてきた建築という営みそのものを、かつてその前に立った一人の建築家の記憶とファインダー越しに捉え収めてきた記録を通して辿る、紀行文集のような体裁の本書。

f:id:keibunshabooks:20170310195504j:plain

名所観光や客観的なデータとしての建築写真集は世に多くありますが、個人の記憶や実感によりフィルタリングされ浮かび上がる建物や街の姿は、読み手にとって一層印象深く定着するもの。それが、専門家のフィルターであればなおのこと。建築にはなじみが薄いというような方にこそ、本のなか、建築を経巡る旅に出るような心持でそのページを開いていただきたい美しい一冊です。

 

f:id:keibunshabooks:20170310195222j:plain

骨董、工芸、建築などを扱う年3回発行の書籍『工芸青花』の取り扱いが最新7号よりスタートしました。
現在、大山崎山荘美術館で個展開催中(~3/12まで)、当店でも関連書籍をよく手に取っていただいているフランスの画家、ロベール・クートラス。その作品はもちろん、人となりなどの周辺を巡る堀江敏幸の文章があらたに連載として加わった今号では、哲学者・井上治と花人・川瀬敏郎によるコラボレーションや、従来の日本美術や日本工芸の枠に縛られない90年代以降の「生活工芸」派と、それよりもさらに若い世代の作家たちによる「作用」派の作品や作家を多数のビジュアルやテキスト、対談などで紹介する特集、白洲正子をして「稀に見る目利き」と言わしめた骨董工芸随筆家の秦秀雄の旧蔵品とともに彼の功績と来歴を様々な書き手のペンにより紹介する特集などを掲載しています。手触りの良い麻布張りの上製本に包み込まれた工芸品のように美しい本書は、手に持ち、開くことができる本の物質的な豊かさと歓びを再認させてくれます。

工芸青花からは、東京・南青山で朝鮮の古美術を扱う「梨洞」を開く李鳳來さんが李朝の古美術の魅力を綴った書籍『李朝を巡る心』も同時に入荷しています。こちらも近日中にオンラインショップにてご紹介させていただきますので、ぜひご覧ください。

今週は嬉しい入荷がもう一点。

昨年末に入荷したものの瞬く間に売り切れとなっていた山尾悠子さんの幻の歌集『角砂糖の日』約30年ぶりの復刊新装版。当初、重版の予定はなかったこちらの第二刷が今週新たに届いております。

f:id:keibunshabooks:20170310195330j:plain

塚本邦雄や葛原妙子など若き日の作家が傾倒していた歌人たちに導かれるようにして作った眩いばかりの短歌の数々。新版発行に際し、合田佐和子、まりの・るうにい、山下陽子による妖しくも美しい挿画を一葉ずつ収載し、作家自身による書き下ろし掌編小説「小鳥たち」と「新版 後記」も収録。わずかにグレーがかった白い貼函のなかに収まる真紅のハードカバーの表紙には金の箔押しが施された美術品のような一冊です。こちらは、今回も在庫限りの限定数販売となりますので、ぜひお早めに。

 

そのほか、新しい出版社スタンド・ブックスの刊行第一弾、待望された方も多いであろうSSW前野健太の散文集にして初の単行本『百年後』、所有することではなく貸し借りすることにこれからの住まいかたの可能性を探るウェブマガジン発の一冊『#カリグラシ 賃貸と団地、貸し借りのニュー哲学』、イラストレーター・オカヤイヅミさんが現代作家15人と食卓を共にしながらそれぞれが選ぶ最後の晩餐についてインタビューするコミックエッセイ『おあとがよろしいようで』、日本を代表する現代演劇集団「地点」が北白川に構えるアトリエ兼劇場「アンダースロー」から投じる雑誌『地下室 草号』の第2号、「ニューヨーカー」誌のイラストレーターが聞き書きした興味深い逸話と共に世界の75の書店を紹介する『世界の夢の本屋さんに聞いた素敵な話』なども今週入荷しています。

ご来店の際にはぜひそれぞれを手に取ってご覧になってみてください。

 

それでは、また来週をお楽しみに。

 

《今回ご紹介した本》
『PERSPECTIVE from an oblique 01』合同会社カワタ社

http://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000020908/

『建築のポートレート』香山壽夫/LIXIL出版

http://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000020917/

『工芸青花 7号』青花の会/新潮社

http://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000020918/

『角砂糖の日 新装版』山尾悠子/LIBRAIRIE6

http://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000020910/

 

 

(涌上)