毎週金曜更新。
その週に入荷した活きが良い本を紹介する「今週の新入荷」、3月第1週をお届けします。
今回まずご紹介する一冊は、ポール・オースターの新刊『冬の日誌』。人生の冬を迎えた70歳の作家による肉体と感覚をめぐる回想録。「君は十歳で、」「君はもう若くない。」…2、3行の短いセンテンスが連続し、時系列も断絶した走馬灯のような冒頭の文章に引き込まれ、奥に踏み込み、彼の人生を覗き見る。静かな、それでいて胸を打つ文章が広がる一冊です。本書と対をなす、精神をめぐる回想録『内面からの報告書』も来月末発売予定。翻訳はもちろん柴田元幸さん。ちょうど私もそうだったように、大半の若い読者にとって海外文学の入り口は柴田さんの訳書です。
4月2日の夜、柴田さんをお招きした朗読会を開催します。今回の中心はもちろんオースター。柴田さんの朗読を聞くと、彼が普段いかに音を大切にして翻訳をしているかよく伝わってきます。いつもの温和な柴田さんの雰囲気から想像もつかない、低く、唸るような声で行われる、迫真の朗読。過去に当店で開催した朗読会で披露された、ポーの「赤死病の仮面」を聞いた時は身震いがしたほどです。毎回満員予約締切となる人気のイベント。ご参加予定の方はお早めのご予約をおすすめします。http://ignitiongallery.tumblr.com/post/157571491682/
絵本のレンタルプロジェクトを中心に活動するWORLD LIBRARYが発行する絵本の取り扱いを開始しました。まだ販売店が多くないようなので、当店にお立ち寄りの際は要注目。英米だけに限らず、イタリア、スペイン、ノルウェー、韓国、中国などあらゆる国の絵本を翻訳されています。現在の取り扱いはこちらの4冊。今後、積極的にラインナップを増やしていく予定です。
イタリアでたくさんのこどもに読まれている、スライドの仕掛けを動かして遊ぶ絵本「ちいさな ゆびで」シリーズ。
実際に一冊を貫通して空いた小さな穴を巧みに使ったユーモラスなストーリーが魅力的なノルウェーの絵本『穴』。
ハーマン・メルヴィルの「白鯨」をもとに生まれたスペインの絵本『エイハブ船長と白いクジラ』。こちらは海外文学の棚に並べています。
クジラといえば、1995年生まれを中心とした若者たちが編集する文芸雑誌、『文鯨』第二号も入荷しています。特集は「叫びを翻訳するということ」。海外文芸の翻訳が単なる言語の言い換えに留まらないのと同じように、個人の内面から生じる叫びを批評、小説、詩歌など、あらゆる文芸表現へと昇華する。表現、批評するということを改めて泥臭く見つめ直そうとする気概にあふれた作品ばかりが揃います。第二号の発刊を迎え、より彼らの目的が明確になったといえるでしょう。要注目の書き手、山本浩貴+hの作品や、若き写真家、嶌村吉祥丸の断片的な写真と散文を収録。今後の刊行も楽しみな実験的な一冊です。
建築専門誌『GA JAPAN 145』特集「建築にまつわる本のはなし」入荷しています。建築家50人が勧める本のコーナーをはじめ、原研哉が語る建築とメディアの関係、隈研吾が語る建築と庭など、特集内のすべてのトピックで読者が参考可能な書籍が紹介されています。しかも全体の7割が特集ページというまさに完全保存版です。ゆくゆく重宝すること間違いなし。
その他に、ひと組み合わせの音に対して多数の意味を持つ"多義語"を取り上げる小冊子『タギゴのイ』、雑誌ニューヨーカーを代表する書き手であり、常盤新平も絶賛したジョゼフ・ミッチェルの作品集『マクソーリーの素敵な酒場』(柏書房)、詩人西尾勝彦さんの最新詩集『光ったり眠ったりしているものたち』などが入荷しています。
それでは来週もお楽しみに。
《今回紹介した本》
『冬の日誌』ポール・オースター 柴田元幸訳 新潮社
『あおいよるのゆめ』ガブリエーレ・クリーマ WORLD LIBRARY
http://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000020882/
『穴』オイヴィン・トールシェーテル WORLD LIBRARY
http://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000020884
『エイハブ船長と白いクジラ』マヌエル・マルソル WORLD LIBRARY
http://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000020885/
『文鯨 第二号』文鯨編集部
http://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000020889/
『GA JAPAN 145』A.D.A EDITA TOKYO
(鎌田)