「金曜日の本」
クラフト・エヴィング商會が立ち上げた、
本との接し方の原点に立ち返ることを主眼とした新たな試み。
世田谷文学館の開館20周年記念の一環として「金曜日の本」から実際に、クラフト・エヴィング商會の片翼である吉田篤弘が12年間あたためたという小説『おるもすと』が刊行されました。孤独な男の一人語り。ちょうどはじめて彼の小説を読んだ時と同じ感覚を覚えました。長年のファンにとってはやたらと沁みる作品です。
今時珍しく、こちらの本はひと文字ずつ活字を組み、西ドイツ製の活版印刷機で刷られています。触れた瞬間に活版印刷ならではの質感を感じ取っていただけることでしょう。昔ながらの製法ということで、ページによって印刷が濃かったり、薄かったり、文字がズレていたり、それがまた趣となって読むものに幸福を感じさせます。100ページ足らずの小説にして、しっかりと紐の栞が付いていることからも、造本への並々ならぬこだわりが伝わってきます。
この文字のズレも、クラフト・エヴィング商會というフィルターを通せば、それがわざとなのか、偶然なのかわからなくなります。しかし、それはきっと問題ではありません。ある友人は文字が浮き上がっているようにみえると言いました。
今になって思い返すのは、2011年刊行の『おかしな本棚』の中で、三浦しをんとクラフト・エヴィング商會の共著として紹介されていた「ZZZ」という本のこと。当時、いくら探しても結局入手方がわかりませんでしたが、後々「あの本は実際には刊行されていない架空の本なのだ。」と人から聞かされました。(正しくは、刊行予定は前からあったそうで、近いうちに実際に刊行するという噂。)こんな具合に空想の話が現実に作用するという特異な感覚を与えてくれる吉田篤弘、もしくはクラフト・エヴィング商會の手がける本たち。当店でも数多く揃えております。
『おるもすと』は、
本そのものの手触り、読み進める感覚ともにとても心地が良い一冊です。
ぜひ実際に手にとってご覧になってみてください。
(鎌田)
※『おるもすと』は限定部数の発行。当店では店頭のみの販売となります。