恵文社一乗寺店 スタッフブログ

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ブックフェア「記録集『はな子のいる風景』をめぐる、15の書籍」と同名冊子刊行のお知らせ

 

69年間の169秒、

と、その残像、

と、15の書籍。

 

来園者はなぜ、象の前で写真を撮ったのか。

来園者が象の前で写真を撮ったその日、飼育員は何を日誌に記したのか。

象の死を悼む来園者が、失ったものは何だったのか。

 

時間的/空間的な隔たりを埋めようとする時、

人とモノ、読者と本は、イメージを運ぶメディアとして、ともに働く。

 

本書を形づくった15の書籍、もうひとつの「はな子のいる風景」。

 

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書籍フロアでは、記録集『はな子のいる風景 イメージを(ひっ)くりかえす』の企画・編者である AHA![Archive for Human Activities/人類の営みのためのアーカイブ] の松本篤さんの選書によるブックフェア「『はな子のいる風景』をめぐる、15の書籍」を開催中です。

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武蔵野市吉祥寺美術館の展覧会の一環として制作された本書は、日々の飼育日誌、訪れた人々が記念に撮影した写真、当時の新聞記事の複製など様々な公的/私的記録を通じて、戦後の日本に生きた一頭の象「はな子」の69年間に光を当てたアートブックです。また本書では、様々な記録の集積とともに、写真提供者たちに「失ったもの」を問いかけるインタビュー冊子を併録することで、一枚の写真、一頭の象、個別の記憶から広がるイメージの連鎖や反射、繋がりや隔たりを読み手に想起させながら、記憶と記録の不可思議な関係性、象と人々が生きた時代の生活や歴史、喪われたものとともに存在することなど、「時間」をめぐる様々な思考、感慨へと読み手をいざなう構成が取られています。

(本書に関しては以下の記事にて詳しくご紹介しています)

 

 

 

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様々な文脈を織り込んだ構成、必然性を感じさせるユニークな造本。刊行より二年近くを経てもなお、新たな読者へと静かに波及し続ける一冊の本は、いったいどのような考え方、方法論のもとに生まれたのか。本フェアでは、本書を形づくっていくうえで企画・編者が参考とした15の書籍を『はな子のいる風景』とともに並べています。

『はな子のいる風景』の背景に存在した様々な先行する試みや思考をそれぞれに綴じた書籍群を手に取り、たどっていただくことで、一頭の象が生きた時間を丹念に追いそこに紐づけられた無数の記憶を想起させる構成の本書さながら、目の前にある一冊の本がどのように他の本と重なり、関係しあっているのかを感じ取っていただければ幸いです。

 

また、本フェアにともない、企画・編者の松本篤さんによるテキストを収めた冊子「記録集『はな子のいる風景』をめぐる、15の書籍」も当店にて制作しました。f:id:keibunshabooks:20190423171438j:plain

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保坂和志、レオポルド・ショボー、ロラン・バルト、国木田独歩、ポール・オースター、スーザン・ソンタグ、牛腸茂雄…。小説や絵本から、アートブック、写真論、社会学や人類学的アプローチに至るまで、15の書籍と『はな子のいる風景』との関係性を論じたテキスト群は、独立したそれぞれの書籍という「点」を『はな子のいる風景』という文脈を通じ「線」で結んでいきます。多くの方に手に取っていただいている本書をお客様とともにより多角的に理解できれば、という当店の投げかけに快くテキストを寄せてくださった松本さんに感謝いたします。

デザインは、当店スタッフの高橋知花と韓千帆が担当。紐づけられた15の書籍すべてを並列に扱うのではなく、それぞれの独立した関係性と存在感を伝えられるように、あえて多様なレイアウトを採用したデザインは視覚的にも楽しんでいただけるのではないかと思います。また、『はな子のいる風景』には収録されなかった一対の家族写真を松本さんよりご提供いただき、表紙と裏表紙に使用させていただきました。

 

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ぜひ『はな子のいる風景』と本冊子を扉として新たな書籍群に触れてみていただければと思います。

 

こちらの冊子は単体で300円+税、『はな子のいる風景』とあわせてのご購入で250円+税での販売となります。

一枚の写真や古いアルバムが時に、異なる境遇や世代間に新たに生まれるコミュニケーションの媒介物として機能するように、戦後の復興期から平成までを生きた一頭の象を追った『はな子のいる風景』もまた個々の記憶の交換や継承の糸口として手にしていただける本です。近しい人や親族への贈り物としてもおすすめしたい一冊ですので、すでにお持ちの方もこの機会に冊子とともにぜひお買い求めください。

 


 

本フェアは5月末日まで開催予定ですが、フェア期間中には、今回の15冊に含めることのかなわなかったいくつかの関連書籍も古書として販売予定です。こちらもぜひお楽しみに。

 

 

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ブックフェア「記録集『はな子のいる風景』をめぐる、15の書籍」

2019年4月15日-5月31日

恵文社一乗寺店 書籍フロアにて

 

 

(涌上)