恵文社一乗寺店 スタッフブログ

恵文社一乗寺店の入荷商品やイベントスケジュール、その他の情報をスタッフが発信いたします。

今週の新入荷、10月第4週

現在、アンフェールではえみおわすさんの秋冬服の展示を、生活館では宮田織物さんの半纏とblueoverさんのスニーカーの販売をそれぞれ行っています。台風を越えて、本格的に冬に足を踏み入れた今、その暖かそうなアイテムのどれもが魅力的で、財布と相談しながら早くも散財してしまいました。秋はどこにいったのか。読書の秋と呟く機会もありませんでしたが、興味深い本が今週も多数入荷しております。

 

それでは、今週の新入荷、10月第4週をお届けします。

 

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まずご紹介するのは、澁澤龍彦没後30年を迎え、東京の世田谷文学館で開催されている大規模な回顧展の公式図録『澁澤龍彦 ドラコニアの地平』です。書斎の様子はじめ、草稿、創作メモ、愛蔵の品々や和洋の蔵書、ゆかりの作家たちの美術品など、300点を超える写真から、彼が築き上げた、深く、耽美なドラコニアの世界を振り返る一冊です。発行はこれまでにも世田谷文学館の図録を請け負ってきた平凡社です。

 

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その資料の豊かさは勿論のこと、特筆すべきは錚々たる面子による当時を知る生の声と、尊敬と親しみに溢れた寄稿でしょうか。澁澤龍子夫人と四谷シモンの対談、加納光於へのインタビュー、金井美恵子、山尾悠子、諏訪哲史、荻原朔美、吉田篤弘らが寄せた文章。当時、装丁を手掛けたブックデザイナー・中島かほるさんと、担当編集を務めた、詩人・平出隆さんによる対談は読み応えがありました。「唐草物語」「ねむり姫」などの書籍の誕生を制作側から見つめたお二人の証言は、その時を生きていなかった私のような若者にとっては貴重な資料です。私の周囲にいる読書家の先輩の多くが、澁澤から文学の門戸を叩いたといいます。改めて、彼の人について知っていきたいと思わせる上質な図録です。

 

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発売前に予約を募っていた、翻訳家・柴田元幸による朗読と音楽家・haruka nakamuraのピアノのセッションによって、ブライアン・エヴンソンの短篇「ウインドアイ」を表現したCDも入荷しています。あまり、日本では馴染の無い、文学作品の朗読を聞くという文化ですが、アメリカではポピュラーらしく、先日見た映画でもラジオからメルヴィルの「白鯨」が流れるという描写がありました。柴田さんが現代アメリカ文学の筆頭に挙げるエヴンソン。ポー、エリクソンから続くアメリカ的な暗い魅力を讃えた作品が数年前にようやく柴田さんの手によってはじめて邦訳され、昨年国内では2冊目となる「ウインドアイ」が発売されました。私自身、柴田さんの朗読を直接堪能する機会に恵まれてきましたが、今回のCDにはそのスリリングな朗読体験がそのままの魅力を保って収録されている感想を持ちました。発行は柴田さんはじめ、数多くの作家のイベントや朗読会を企画するignition galleryです。

 

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続いては、京都にオフィスを構える出版社・ミシマ社が発行する雑誌『ちゃぶ台』のvol.3です。まず雑誌には思えない文芸書の判型をしたこちらのシリーズ、既存の雑誌制作の手順を踏まず、台割を決めずに編まれています。何をもって雑誌と呼ぶか線引きが難しいほど出版形態が多様化している昨今ですが、ミシマ社が敢えて「雑誌」と定義しているあたり、その気概をひしひしと感じます。とはいえ、3号を迎えより雑誌として充実してきた「ちゃぶ台」。特集は教育と地元、今回の主役は何といっても独立研究者の森田真生さんです。森田さんの発案から、今年の夏に周防大島で開催されたサマースクール。内田樹の講演、山縣良和によるワークショップも催された、その一部始終を旅に同行した代表の三島邦弘さんがレポートとしてまとめています。新しい学校、教育の在り方を模索する森田さんの考えや思いがたっぷり詰まった一冊になっています。

 

12月3日(土)には、三ヵ月に一度、森田さんによる3時間を超えるトークライブ「数学ブックトーク in 京都」を開催します。テーマは「数学と教育の原点回帰」。毎回、話題は数学だけに留まらず、思想や身体にまで及ぶ熱のこもった人気のイベントです。いつも傍らで見ている身ではありますが、数学ブックトークはまさしく森田さんによる大人も学生も関係なく相手取った教室であり、学校です。しかも今回のテーマは教育。今から楽しみでなりません。期日が迫ると、いつも満員になります。ご予約はお早めに。

http://www.cottage-keibunsha.com/events/20171202/

 

その他の入荷も粒ぞろいです。沼田元氣、川島小鳥の師弟タッグによる写真集『いちご宣言0号』、沼田さんが自らの妻を撮った新作『妻のすたるじあ』、名作映画を断片的なシーンのイラストからあてるクイズ形式のイラスト集『NAME That MOVIE』など。特にTwitterやブログで紹介していないものも店頭に揃えています。

 

それでは、今週はここまで。

また来週もお楽しみに。

 

《今回紹介した本・CD》

■『澁澤龍彦 ドラコニアの地平』世田谷文学館(平凡社)

www.keibunsha-books.com

■『ちゃぶ台 vol.3 教育×地元号』(ミシマ社)

www.keibunsha-books.com

■CD『ウインドアイ』柴田元幸 haruka nakamura(ignition gallery)

www.keibunsha-books.com

(鎌田)