恵文社一乗寺店 スタッフブログ

恵文社一乗寺店の入荷商品やイベントスケジュール、その他の情報をスタッフが発信いたします。

今週の新入荷、10月第2週

あまりに暑かったので、思い切って大学ぶりに頭を丸めた途端に、急に寒くなり早くも後悔しています。気合は入ってよかったのですが、似合う服がありません。皆様も髪を切られる際は一度踏みとどまってみては。

 

それでは、今週の新入荷、10月第2週をお届けします。

 

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まずご紹介するのは、吉田篤弘さんの新刊『京都で考えた』です。作家が古本屋やレコード店、喫茶店を停留所にしながら京都の街を歩き、考えたことを綴った書き下ろしエッセイです。この“停留所”という表現は本文にも登場するわけですが、京都に住んでいる人であればぐっとくる言い回しではないでしょうか。と、またつらつらと書き始めてしまいましたが、これまでにしつこいほどこの本を紹介してきました。そろそろ別のことを書けと言われる頃合いかと思いますので、今回は内容ではなく、外縁に触れてみます。

 

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実はこの本が実際に届く前に、発行元ミシマ社の三島さんにその時点でまだこの世に一冊しか出来上がっていないという見本を触らせていただきました。手にとって、まず思い浮かんだのは、吉田さんの本だと触覚から伝わってくるという感覚でした。吉田浩美さんとのアート、デザイン・ユニット〈クラフト・エヴィング商會〉として、自著をはじめ、数多くの装丁をてがける吉田さんですが、そのデザインにはやはり一貫したものがあり、今回の新刊はよりその個性が色濃く出ている印象です。特に、世田谷文学館で開催されたクラフト・エヴィングの展示の際に同館より発行された一冊『おるもすと』とよく似ています。その理由は、紙か、版型か、厚さか、何か。ともかく、自分の中では双子のような本で、もしかすると皆様にも同じ感覚を持っていただけるのではという期待も込めて、久しぶりに『おすもすと』も仕入れました。この本の企画は三島さんから、私がまだ学生の頃よりお話をうかがっていて、書店員という枠を離れて、ずっと待ちわびてきた本でもあります。本書の京都で販売されているものについている帯の裏面にコメントを載せていただきました。ありがとうございます。

 

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続いては、翻訳家・柴田元幸さんが責任編集を務める文芸誌『MONKEY』vol.13です。今回は「食の一ダース 考える糧」と銘打った〈食〉特集。メインディッシュは、堀江敏幸、ブライアン・エヴンソンらの短編に、竹花いち子さんが作ったその話にまつわる料理の写真が添えられた頁です。ありそうでなかった試みで、その作品の質はもちろんのこと、新しい小説体験になることは間違いありません。ただ、食特集というと温かいスープとパンと…といった旨そうな食卓を想像されるでしょうが、そんなことはなく、柴田さん曰く「美味しそうとは言いがたい話の方が、美味しそうな話に比べて多数派になりました。」、同時にいずれの作品も「いい味を出している」とも。前号から続く特集の後編となる「日本翻訳史 明治篇」や、タダジュンさんが挿画を手がけ、柴田さんが訳し下ろしたボブ・ディランのノーベル賞受賞公演のスピーチも収録。編集者としての柴田さんのバランス感覚には毎回脱帽します。ちなみに表紙の猿の絵は長新太によるもの。

 

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今回の『MONKEY』にもアンケート寄稿をしている音楽家・小島ケイタニーラブ。柴田さんをはじめ、多くの作家と幾度となく共演すしてきた、文学のフィールドに限りなく近い存在です。今回、東京の本屋、SUNNY BOY BOOKSから発売されたCDブック『わたしたちの聲音』は、小島さんと作家・温又柔さんによる共作。ペソアや横光利一の作品を軸に、制作された物語と歌の往復書簡です。当店で小さな展示を開催したタダジュンさんの作品集を出版したのもSUNNY BOY BOOKS。実はまだうかがったことがなく、5坪しかないという小さな本屋から発信されている一連の熱に触れ、次回東京に行く際はぜひ立ち寄ってみたいと思わされました。

 

 

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最後に、もう一冊。少しでも出版業界に詳しい方はその名前を聞いたことがあるだろう東京の製本会社・美篶堂。そこが主だって活動している〈本づくり協会〉から届いた冊子『BOOK ARTS AND CRAFTS』です。実は少し前に発行されていたのですが、縁あって今回のvol.2から取り扱いをはじめました。特集は「言葉と文字と本の関係」。本が作家の言葉を伝える船とするならば、文字は櫂だろう、というなんとも詩的な一文からはじまります。メインは、詩人谷川俊太郎さんの一篇の詩のためだけに、書体設計士の鳥海修さんが文字を一から生み出すという、本好きにとっては夢のような企画を追ったドキュメンタリーです。実は、当店で開催された平野甲賀さんと鳥海さんのトークショーの際に掘り下げられた話題でもあります。谷川さんの父、哲学者の谷川徹三さんの自著へ施した書き文字の話からはじまり、長きにわたって言葉に向き合ってきた詩人と、文字そのものを見つめてきたデザイナーによる文字談義。もう一度言いますが、本好きには夢のような企画です。ご案内くださった美篶堂の上島さんは会報誌的な面もあるとおっしゃっていましたが、専門的な内容でありながら、誌面からはかなり開けた印象を受けました。vol.1もあわせて入荷しております。

 

それでは、今週はここまで。

来週もお楽しみに。

 

(鎌田)

〈今回ご紹介した本〉

■『京都で考えた』吉田篤弘(ミシマ社)

www.keibunsha-books.com

■『MONKEY vol.13』(スイッチ・パブリッシング)

www.keibunsha-books.com

■『BOOK ARTS AND CRAFTS vol.2』(本づくり協会)

www.keibunsha-books.com