恵文社一乗寺店 スタッフブログ

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今週の新入荷、9月第4週

今週の新入荷、9月第4週をお届けします。

 

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 ミシマ社より届いた最新刊、松村圭一郎さんの単著『うしろめたさの人類学』。 松村さんは、エチオピアの農村や中東の都市で20年近くフィールドワークを続け、富の所有と分配、貧困と開発援助、海外出稼ぎなどについて研究する文化人類学者。本書は、「構築人類学」という新たな学問の方法で、わたしたちが生きる一見強固に制度化した「世界」のあり方を捉えなおし、分断された個々人がどのように新しい時代の倫理を作り出すことができるかを論じた一書です。

自分たちは一体どのような制度の中で生きているのか、無意識にそれを内面化/身体化しているのか。全く異なる環境で生きるエチオピアの人々の日常的な贈与経済のあり方や豊かな共感能力との対比から、私たちが当然の前提として飲み込んでしまっている市場や国家、それらが作り出す社会のあり様がどのように構築されているのかを本書は示します。どちらが良くてどちらが悪い、という話に収斂していくのではなく、同じ世界にありながら全く異なる生き方を垣間見ることで、自分たち自身の立ち位置を相対化し、踏み越えられないと思い込んでいる原理原則や境界線を少しずつ、軽やかにずらし、新たに構築していく。様々な章立てのもと、その可能性が丁寧に語られていきます。

松村さんがフィールドワークで出会ったエチオピアの人々の写真や滞在時の日記からの抜粋が本文の合間に挟まれる構成も、ふたつのフィールドを往復しながら「世界」のイメージを更新してゆく全体の論旨に呼応するかのよう。人文書のイメージを更新するような軽やかブックデザインも素晴らしい一冊です。

10月5日には、著者の松村圭一郎さんと、代表作『ナチスのキッチン』で膨大な史料にあたりながら大文字の歴史と日常の生活文化との関係性を照射した農業経済学者、藤原辰史さんをお招きしてのトークイベント"「私」が変われば、世界が変わる? ―構築人類学の可能性― 松村圭一郎×藤原辰史"が当店COTTAGEにて開催されます。人文知を通じて、遠くあいまいな「世界」の手触りをどのように手繰り寄せることができるのか。ぜひ、こちらもご参加ください。

 

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昨秋よりローマ、ロンドンを巡回し、現在、東京国立近代美術館で開催中(~10/29 )、戦後日本の戸建て住宅を紹介する同名展覧会の図録『日本の家 1945年以降の建築と暮らし』。公共事業の建築物とは異なり、その場所の土地性や住まい手とのコミュニケーションや希望への応答など、ある種の制約を受けながら、同時にだからこそラディカルに時代性を反映してきたこの国の個人住宅の系譜。戦後復興、高度経済成長、バブル景気とその崩壊、自然災害、都市の変遷や家族のかたちの変化など、社会状況や技術環境を反映しながら、表現され、時代や都市への批評として機能してきた建築家たち56組75件の仕事を、写真や図版もたっぷりに紹介した一冊です。

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本書の大きな特徴は、ただ住宅を一つずつ切り離して紹介するのではなく、「様式」「都市/家族」「産業」などの側面にまたがる13のテーマ(系譜)を設け、戦後間もなくに建てられたものから2000年代以降の現代建築家たちが手掛けた住宅まで、複数の家どうしが共有する関心や問題を批評的に浮かび上がらせることで、建築家たちが"いったい何をしているのか"を浮かび上がらせるような構成が採られていること。

単体ではそのユニークさだけが際立ちがちなそれぞれの建築家たちが時代を超え、同じ問いにどのように回答したのかを知ることで、70年の間にこの国そのものが辿った変遷や時代ごとの相貌が垣間見えてくるようです。

すぐに読み通すことはなくとも、ことあるごとに重宝しそうな非常に資料性の高い一冊です。ご来店の際はぜひ手に取ってご覧になってみてください。

 

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パリのドキュメント写真専門ギャラリー"LE BAL"から発行された『Magnum Analog Recovery』。今年、創立70週年を迎えた国際的写真家集団「マグナム・フォト」。デジタル技術が到来する以前の最初の30年間に、報道写真として各媒体に配信された未公開作を含むプリント群を収めた作品集です。

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ロバート・キャパ、アンリ・カルティエ=ブレッソン、イブ・アーノルド、ルネ・ブリ、ジョセフ・クーデルカらが切り取った、1900年代半ば、激動の時代のセンセーショナルで美しい記録の数々。色褪せることのない魅力を放つアーカイブをそのままに取り出すかのようなバインダー式の製本。冊子状のページや折込式ページ、広げればポスターになるような折りたたみページなど様々な手法でそのアーカイブが提示され、各作品の合間に差し込まれたメモや手紙などのテキスト群は、それぞれの作品が撮影された時代背景を写真家たち自身の言葉で伝えます。500部限定でこのクオリティ、数年経たずにレアブックとなること必至の作品集です。

バインダー式の製本のため痛みやすく、棚にはサンプル品をご用意していませんが、中身をご覧になりたい方は書店カウンターでご覧いただくことも可能ですので書店スタッフまでお気軽にお声がけください。

 

 その他、写真家・野口里佳の才気あふれる超初期作品群を収めた造本も美しい写真集『創造の記録 Record of Creation』、加藤直徳さんによる新たな雑誌創刊までを追うzineシリーズ『ATLANTIS zine』の3号、彦坂木版工房さんによる木版画絵本の第四弾『スープになりました』、小説編も大好評だった徳島のaalto coffee店主・庄野雄治さんによるテキストアンソロジーブック第2弾『コーヒーと随筆』、小説家・川上未映子が責任編集を担い「女性」と「書く」をテーマにかつてない執筆陣で送る『早稲田文学増刊 女性号』なども入荷しています。

 

それでは、また来週をお楽しみに。

 

《今回ご紹介した本》

■『うしろめたさの人類学』松村圭一郎/ミシマ社

■『日本の家 1945年以降の建築と暮らし』

■『MAGNUM ANALOG RECOVERY』LE BAL

(涌上)