恵文社一乗寺店 スタッフブログ

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今週の新入荷、8月第1週

今週の新入荷、8月第1週をお届けします。

 

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先ほど終わったばかりの「数学ブックトーク」。独立研究者の森田真生さんが、数学にまつわる本を紹介し、その魅力を解説する毎回人気のイベントです。当店では3ヶ月に一度開催しています。2年前、30歳という若さでデビュー作『数学する身体』(新潮社)が小林秀雄賞を受賞した、目下最注目の書き手です。

 

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そんな森田さんがはじめて絵本の文章を手がけた『アリになった数学者』が福音館書の「たくさんのふしぎ」の9月号として出版されました。「1とは何か」を説く絵本を作りたいという出版社の要請を受け、3年の歳月をかけてようやく完成したこちらの本。ある日、アリになった(生まれ変わった)数学者が、人間だった頃に探求していた数学から派生する思想や、奇数、偶数といった数字について、思索に耽りながら滔々と語る内容となっています。四千字程度でという依頼があったにもかかわらず、森田さんが提示した原稿はおよそ一万字。おそらく、同シリーズ最多の文字数で語られた唯一無二の絵本になりました。数学研究者ではなく、独立研究者と自他ともにそう呼ぶように、森田さんが追い求める世界は数学に留まらず、多岐に渡ります。森田さんが著作や、イベントで触れる、ピタゴラス、ウィトゲンシュタイン、デカルトら、数学を基盤としながら、その他の世界でその概念そのものを生み出してきた大家と同じように、そういった知識を蓄え、他と比較し、研磨してきた森田さんの見る視点がそのまま表れた、絵本でありながら、他のジャンルでも価値のある一冊に。

 

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森田さんの手描きの数式が採用されたこちらのページ。実はラッセルの提唱した定理が書かれています。本来、小学中学年を対象にしたシリーズですが、我々大人が読んでもいろいろなことを想起させられます。絵を担当したのは、日本人ではじめてマリメッコのデザイナーになり、現在は京都のSOU・SOUで活躍する脇阪克二さん。絵に起こしにくい、ともすれば専門的な内容を見事に表現されています。月刊誌のため、増刷はされません。ご希望の方はお早めに。

 

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続いては、デザインの父、ブルーノ・ムナーリの代表作ともいえる絵本『闇の夜に』。少しの間、出版社品切状態でしたが、生誕100周年を記念して新装版が刊行されました。ページ上部の穴を覗くと、夜空に浮かんだ満月に。ギザギザと幾重にも重なって空けられた穴は洞窟に、半透明の紙は魚が泳ぐ水に。プロダクトデザイン、絵画、造形、知育玩具、あらゆるジャンルに精通したムナーリが、生前精力的に取り組んでいた絵本の制作。遊ぶように取り組んだであろう遊び心が存分に詰まった一冊です。翻訳はブローティガンの翻訳で知られる藤本和子さんです。イタリアから届いたムナーリ展の図録等、関連書籍も多数ご用意しております。

 

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巻き毛の可愛らしい男の子がおばあちゃんの家に遊びに行き、粉だらけになりながら一緒にパンを作って食べた一日を写した、可愛らしい絵本のような写真集『PAIN パンの本』。ピーナツバターパン、あんパン、酒粕パン、木の実とフルーツのパン…ちょっとしたレシピも収録されています。上部がミシンで縫われた、小麦粉の袋をイメージしたというパッケージもあわせてお楽しみください。取扱店を見る限り、京都では書店の取り扱いはこれまでなかったようです。プレゼントにもおすすめの一冊。ぜひこの機会にご注目ください。

 

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昨今、多くの場面で目にするテーマ「小屋」。若者の間でも平屋に住むことが小さなブームになっていると聞きます。今回このテーマに取り組んだのは、ミニマリズムを「住」の視点から発信するグループYADOKARI。リトルプレス「月極本」はじめ、短いあいだに多くの書籍を手がけ、小さく住まう、という現代人の関心が集まる話題には必ずといってよいほど登場する注目のグループです。『ニッポンの新しい小屋暮らし』は、他拠点生活、田舎暮らし…国内で少しずつ増えている小屋を中心に据えた新しい豊かさ、価値観を11の実例から提示する一冊。

 

夜分に失礼いたしました。

今回はここまで、また来週もお楽しみに。

 

〈今回紹介した本〉

『アリになった数学者 たくさんのふしぎ9月号』文・森田真生 絵・脇阪克二(福音館書店)

www.keibunsha-books.com

『闇の夜に 新装版』ブルーノ・ムナーリ 訳・藤本和子(河出書房新社)

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『PAIN パンの本』(Falt books)

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『ニッポンの新しい小屋暮らし』YADOKARI(光文社)

www.keibunsha-books.com

 

(鎌田)