恵文社一乗寺店 スタッフブログ

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今週の新入荷、6月第1週

 今週の新入荷、6月第1週をお届けします。

 

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今週まずご紹介するのは、インディペンデントマガジン『Spectator』の39号、特集「パンクマガジン『Jam』の神話」。70年代半ばより全国各地に爆発的に普及し、街の風景の一部と化した自販機本(成人向けの娯楽読み物、いわゆるエロ本)ブームのなか、79年に創刊され、そのアヴァンギャルドな編集内容、一貫したパンクな姿勢から「伝説の自販機本」とも評される『Jam』を大特集。

プロレスや神秘主義、フリーミュージックなど活字メインの記事を連発する異色の編集を展開し、徹底的に当時のアンダーグラウンドカルチャーを自分たちのやり方で"遊び続けた"『Jam』。その過激な内容から大きな批判を浴びた創刊号をあらためて読み込むページや、60ページにもおよぶ『Jam』再録ページ、編集長であり『Jam』を体現する存在だった高杉弾へのインタビュー、出版業界人たちが出版史から語る自販機本に関するコラムなども掲載。また、ポルノ要素を無視するかの如く、禅やビートニク、ドラッグやサイケデリックカルチャーなどヒッピームーブメントの影響を存分に吸収しながら独自の編集方針を展開した前身の『X-Magazine』、リニューアル後、ダダやシュルレアリスム、稲垣足穂や工作舎などの影響を色濃く受けたヴィジュアルマガジンとなった『HEAVEN』に関する言及なども含み、1980年前後のアングラカルチャーの濃厚な空気を存分に伝える貴重な一冊となっています。

現在と照らし合わせて(あるいは、当時であっても)イリーガルな内容を多分に含んだ個別の記事への好悪はともかく、マーケティングやブランディングばかりが先行し宣伝中心主義や成果主義的なムードが優勢な現代に、ムードや時代性を超越するかのごとく個人の思い込みに端を発した熱量と密度を備えたパンキッシュな姿勢を貫いた本誌に学べる点も少なくないはずです。当時を知る方はもちろん、若い方にこそぜひ触れていただきたい『Spectator』らしい意欲的なイシューです。

 

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アルファベット順に並んだ60年代ニューヨークのアーティストやセレブリティのシンプルなモノクロのバスト・ショット。60年代半ば、マンハッタンに構えた自身のスタジオ「ファクトリー」で、昼夜を問わず集った何とも豪華な面々の顔を16ミリのボレックスで撮影したのはアンディ・ウォーホル。アシスタントのジェラード・マランガとともに撮影した映像作品[Screen Tests]のフィルムのプリント写真にマランガの散文詩を添え、67年にウォーホルが刊行した『Screen Tests / A Diary』が、50年の時を経てこのたび日本で復刻されました。

"早逝のミューズ"イーディ・セジウィック、ヴェルヴェッツのニコやルー・リード、画家のダリ、詩人のアレン・ギンズバーグ、映像作家のジョナス・メカスなど、時代の空気を伝えるポートレイト集は、同時期にウォーホルが制作したヴィジュアルブック『Andy Warhol’s Index(Book)』に比してミニマルな構成と実験的な作風が目立ったためか刊行当時の売り上げが芳しくなく、ほとんどが断裁処分され、手に入る機会の極めて稀なレアブックと化していました。日常的に記録映画を撮影し、友人たちとの会話を録音までしていたというウォーホルが残した実験的な試みは、50年の時を経て、再び一つの時代の貴重な記録として現代に浮かび上がってきます。復刊に際し、挟み込み冊子にて解説を展開した河添剛氏の読み応えあるテキストも必読です。ぜひ、この機会に手に取ってみてください。

 

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山口県の地方出版社、創林舎が発行するイタリア文藝叢書シリーズより、寓意と幻想に満ちた作風で知られる現代イタリア文学の鬼才、ディーノ・ブッツァーティの作品集『夜の挿話(エピソード)』が届きました。長編『タタール人の砂漠』や短編集『七人の使者たち』など、日本ではその小説にスポットが当てられることの多かったブッツァーティですが、イタリアで最も有名な新聞社「コッリエーレ・デッラ・セーラ」紙のジャーナリストでもあった彼はルポルタージュも残しており、本国では没後それらの著作も出版されていました。ショートショートよりもさらに短い「超掌編」とも呼ぶべき6作を収めた表題作や、ジャーナリストとして取材したフェリーニの神秘体験やイタリアのUFO騒動の考察など超常現象のルポルタージュ、一幕劇のために書かれた戯曲集など、作家の幅広い文業から短編、戯曲、ルポルタージュなど全12編を訳出し、独自に編集した本作品集。小説外の作品も収めることで、これまでに見出されてこなかった作家の多面性を紹介した意義ある出版です。ファンはもちろん、ブッツァーティ初心者も、この一冊からさまざまな名作や絵画など彼の多才な創作の数々に触れられてみてはいかがでしょうか。

 

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先日、当店コテージにて上映会を開催したロシアのアニメーション作家、ユーリー・ノルシュテイン。会場にて販売した『ユーリー・ノルシュテイン作品集 2K修復版』のBlu-ray/DVDのスチールブックも店頭・ウェブにて販売を開始しています。

代表作「霧の中のハリネズミ」や「話の話」などが収められているのはもちろんのこと、2016年来日時のインタビューや講演の模様を収録した特典映像、32ページに及ぶブックレット、初回限定の描きおろしアートカード全3枚なども封入されたスペシャルな内容です。

上映会終了後、ノルシュテインをはじめとするインディペンデント作家たちが、大規模スタジオで分業制作されるアニメーションとは異なり”個人的な”作品で描くもの、アニメーションのもう一つの可能性について話してくださった土居伸彰さんの論考『個人的なハーモニー ノルシュテインと現代アニメーション論』や、今回の作品集に収められた作品群への解説ともなるポストカードブック『「アニメーションの神様、その美しき世界」パンフレット』など関連書籍も引き続き店頭でフェア継続中、またウェブにて取り扱っています。愛蔵版となるソフトとともに、ぜひ世界中の作家から尊敬を集める映像詩人の世界をいろいろな角度から楽しんでいただければ幸いです。

 

 その他、IZU PHOTO MUSEUMで開催中のニューヨーク生まれの写真家、Terri Weifenbachの同名展覧会図録でもある美しい写真集『テリ・ワイフェンバック The May Sun』、物語の舞台となる部屋の間取りを決めてから書かれた大竹昭子さんの小説集『間取りと妄想』、「THE NEW YORKER」や「インザシティ」などのカバーアートでもおなじみのエイドリアン・トミネの『Killing and Dying』邦訳版、アメリカ発のティーン向けウェブマガジンのヴィジュアルブック第2弾『ROOKIE YEARBOOK TWO』、深瀬昌久の飼い猫を被写体にした写真集『Afterword』の2nd editionなども入荷しています。

 

それでは、また次回をお楽しみに。

 

《今回ご紹介した本》

www.keibunsha-books.com

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(涌上)