恵文社一乗寺店 スタッフブログ

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今週の新入荷、5月第3週

今週の新入荷、5月第3週をお届けします。

 

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今週まずご紹介するのは、井田千秋さんの『おさまる家』。アンティークの家具、レトロな調度品、季節の草花、お気に入りの本と洋服、あたたかい飲み物と食べものを囲む食卓の情景。童話や児童文学の世界で表現されるような美しくも生活感あふれる描写が魅力的な井田千秋さんのイラストレーション。

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女の子と部屋をテーマにしたその作品は、ミリペンやシャープペンシル、鉛筆などを用いて描かれ、繰るページに次々と現れる繊細で細密なタッチからたちあがる温もりを感じさせる小部屋の数々は、懐かしい憧れのようにいつまでも心に残ります。これまでにも個展から生まれ、発表された『おしろにすんでいる』や『ふゆのいえ』などの作品集が入荷するたびに即売り切れとなってきた、当店でも非常に人気の高い井田さんの作品。

初のカラー作品となった今回の『おさまる家』、それぞれの家具や小物の存在感をより一層引き立てる淡く優しい色彩も素晴らしく、その静止した世界のなかで語られる素敵な物語を確かめるように、繰り返しページを開いてしまいます。初回入荷分は初週に売り切れ、追加入荷分も早くも在庫僅少となっています。気になる方はぜひお早めに。

 

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写真家、深瀬昌久の代表作にして日本の写真史においても非常に重要な作品集『鴉』。1986年に蒼穹舎より初版が刊行されて以来、2度復刻を遂げながらいずれも少部数のため即完売となっていた幻の作品集がイギリスのMACKより刊行されました。自分自身にこだわり続け、最後にはセルフポートレート作品に辿り着くこととなる深瀬が、自身の孤独と寂寞を重ね合わせるように撮り集めてきた鴉の写真群。空を飛ぶ飛行機の底面や風に煽られる少女の髪など、鴉の羽ばたきを思わせるようなモチーフも含みながら展開されるモノクロ写真の連続は、いずれも圧倒的な説得力を持って見る者に迫ります。初版のデザインやレイアウトを踏襲した作りも素晴らしく、保存版となる一冊です。この機会にぜひ。

 

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季刊フードカルチャー・マガジン『RiCE』の第3号、特集は「カレーライフ」。たんなる一料理にとどまらず、カルチャーやライフスタイルとして日本独自の進化を遂げてきたフードコンテンツとしてのカレーを大特集。自身にとってカレーはコミュニケーションツールであり、ライブであり、ライフであると語る、カレー研究のスペシャリスト水野仁輔さんのテキストに始まり、店主の生き方そのものが詰まったカレー店を紹介する「ライフスタイルカレーショップ」ページ、カレー好きの必携書と言われる『カレーライスと日本人』の著者、森枝卓士と、彼を父に持つ森枝幹による親子二代のテキストなどが続きます。「毎日つまんないなんて言ってる人はカレーを食べに行きゃいい。そうしたら面白いよ、絶対」「カレーって呼んだらもうカレー。服とかも「今日カレー着てるね」「お前今日カレーだね」とか」等々、気持ちのよい名言(迷言?)の数々が飛び出す小宮山雄飛×ダースレイダーのカレー偏愛対談も必読です。

また、多彩なジャンルのカレー通がお気に入りのカレー屋などを紹介する企画では、又吉直樹や佐内正史、下田昌克など錚々たる面々に混じり、恵文社スタッフの鎌田裕樹もアンケートに参加、京都のとあるお店のカレーを紹介しています。こちらもぜひ誌面にてチェックしてみてください。

 

川田絢音の詩がきわめて孤独に見えるのは、そこに描かれているのが異国や異人だからではない。川田絢音がすぐれた詩人だからだ。力や名声や「あたたかい家庭」や、ふつうの人が財産だと思うようなものから決定的にはぐれている身体ひとつの女が、どんなに強靭なことばにたどりつくか。詩のもつ孤独の力が、弱く小さいはずの人間の精神を、遠い遠い高みまでつれていく。

…詩を書いて生きていくというのは、人から遠く遠くはなれたところに飛んでいき、目のくらむような、光りかがやく孤独を手に入れることなのだろう。

(渡邊十絲子『今を生きるための現代詩』より)

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萩原朔太郎賞を受賞した2015年の『雁の世』以後に書かれた、詩人・川田絢音による詩集『白夜』も今週入荷しています。用いられている言葉のひとつひとつは決して難解ではないものの、それが詩作品として形を成すときには、一語一語が別々の輝きを放ちながら異物として身体に響くような、明確な意味としてひと掴みに読みくだすことができない世界を読み手の中に残してゆきます。約束された共感や同意ではなく、ズレや小さな差異を行間に生み出しながら、言葉を用いてより言葉から遠い場所を目指すようなその連なりは、定型化と形骸化の一途をたどる言葉のひとつひとつにふたたび水をあたえ、回復させるような力をそなえています。見知った言葉の知らない側面を見出すように、ゆっくりと時間をかけて身体に馴染ませたい詩集です。出版は、すぐれた詩集や評論を出版する書肆子午線より。

 

その他、お菓子研究家・福田里香さんの久しぶりのレシピブック『季節の果物でジャムを炊く』、間近に控えた当店コテージでのトークイベントも楽しみな奥山由之さんの『君の住む街』、編集工房ノアより届いた今江祥智さんのデッドストック本『愛にー7つの物語』、また、こちらは書籍ではないですが当店コテージにて定期的にライブを行ってくださるSSW長谷川健一さんの昨年12月に行われたライブ映像を収めたDVD『長谷川健一ノンマイクソロライブ』なども入荷しています。それぞれ、店頭やオンラインショップでチェックしてみてください。

 

それでは、また来週をお楽しみに。

 

《今回ご紹介した本》

■『おさまる家』井田千秋

www.keibunsha-books.com

■『鴉 / RAVENS』深瀬昌久/MACK

www.keibunsha-books.com

■『RiCE 03 特集 カレーライフ』ライスプレス

※後日オンラインショップでご紹介いたします。

■『白夜』川田絢音/書肆子午線

 

(涌上)