読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

恵文社一乗寺店 スタッフブログ

恵文社一乗寺店の入荷商品やイベントスケジュール、その他の情報をスタッフが発信いたします。

滞在者の眼差しが描いた生活の街。『手繪京都日和』

f:id:keibunshabooks:20170501194704j:plain

昨年の秋、個人的な旅行で訪れた香港の書店の店頭で出会った一冊の本。
街を南北に流れる鴨川、すぐそばを走る京阪電車、三条駅で交差する地下鉄東西線、御池~三条~四条通と接する河原町通。見慣れた街の地図上に、その土地に住み暮らす者にとってもなじみ深い喫茶店やパン屋、食事処や雑貨店が、看板メニューやお店のロゴマークとして手描きで描かれたその表紙イラスト。
見慣れない風景に囲まれた旅先の土地で、自分の住んでいる街についての本を手に取る。それもまた旅の醍醐味と購入したその本のタイトルは『手繪京都日和』。著者は、87年生まれの台湾のイラストレーター、Fanyu。

f:id:keibunshabooks:20170430223053j:plain

f:id:keibunshabooks:20170430223253j:plain

(観光客だけでなく京都の人々も普段づかいする喫茶店やカフェ)

 

本を開いてページを捲ってみれば、そこには本屋やカフェなど京都のカルチャースポットが好きな人々であれば必ず知っているであろういくつものお店やその内観、手づくり市や古本市といった京都に数あるイベントの光景、カフェや喫茶の独自のメニュー、目移りするような雑貨や文具などが描かれています。
レポートのような文章を添えて手描きで描かれた味わいのあるタッチや色づかいのイラストは、自分の目に映ったもの、自分が描くと決めたものへの愛着と観察のあとが感じ取れるユニークさと可愛らしさが独特の魅力で、思わず見入ってしまいます。

f:id:keibunshabooks:20170430223225j:plain

f:id:keibunshabooks:20170430223110j:plain

(イラストのそばには買ったアイテムや目にした風景の説明や感想が)


意味を捉えられそうな漢字だけを頼りに、添えられた中文テキストを読み進めると、偶然出会った人と交わした会話、食べたものや買ったものへの個人的な感想など、それぞれのお店の歴史やイラストに描いた対象の説明とともに、様々なその場かぎりの記録がそこに書き込まれていることが分かります。
客観性に重きを置く観光都市としての京都案内は日本の書店にも数多く並びますが、このような個人的な視点からわたしたちの住んでいる街を捉えたものは見たことがありません。

f:id:keibunshabooks:20170430223237j:plain 

f:id:keibunshabooks:20170430223155j:plain

(散歩の途中に拾った草の葉をレイアウトしたページも)

 

2014年の5月、ゲストハウスを拠点に数週間京都に滞在し、買い物や外食を楽しむだけでなく、地元のスーパーに通い食材を買い込み自炊をしてみたり、散歩の途中に出会った草花を拾ったり看板に描かれたロゴを模写してみたりしながら、溶け込むようにこの街を歩き、眺め、描かれた、親密さを感じさせるこれらのイラスト日記。

観光客でも生活者でもない、滞在者という立ち位置ならではの街への眼差しと関わりかたから捉えられた「京都」は、この街の風景が日常そのものになっている住み慣れた人々にこそ新鮮に、そして同時に懐かしく映るような気がします。
繰り返しこの街を訪れる方はもちろん、この街に住み、暮らし、その折々の変化を感じてきた方々にこそ、自分たちの記憶のなかやいま眺めている風景に、滞在者の眼差しが描いた2014年の京都を重ね合わせながら楽しんでいただけたらと思います。

f:id:keibunshabooks:20170430223317j:plain 

f:id:keibunshabooks:20170430223145j:plain

(カルチャー好きにはおなじみのお店がずらり。2014年の5月にはまだガケ書房が存在していました)

 

f:id:keibunshabooks:20170501194916j:plain

そして、今回の取扱いにともない、恵文社オリジナルの購入特典として、本書の前書きと後書きの翻訳テキストを収めた冊子、著者のFanyuに描いてもらった恵文社一乗寺店の外観を印刷したポストカードを作りました。
翻訳は、中国・台湾と日本の文化事業のコーディネートや、中国語の翻訳や通訳などでご活躍されているライターの小山ひとみさんにお願いしました。魅力的なイラストが随所に配された本書は、ページを繰り眺めるだけでも楽しめるものですが、今回翻訳が付いたことで、著者のFanyuの文筆家としての魅力や、この本が描かれた背景、京都と台湾の関わりがより深く理解できるようになりました。ぜひイラストとあわせてお楽しみください。

ポストカード特典用のイラストは、滞在中には当店にも訪れ、本書の中でもオリジナルのブックカバーやグッズなどをイラストで紹介してくれているFanyuに今回新たに描いてもらったもの。オリジナリティあふれるタッチが可愛らしく素敵です。こちらももちろん当店のみの特典となりますので、ぜひ手にしていただきたく思います。

f:id:keibunshabooks:20170430223105j:plain

f:id:keibunshabooks:20170430223151j:plain

(本書には恵文社一乗寺店のオリジナルアイテムのイラストも)

 

心奪われたものをじっくり観察し、体験したことの記憶を大切にしながら、日々を記すように丁寧に描く。通り過ぎた風景を誰もが手軽に写真に収め、他者と共有することが可能となった時代に、アナログな手法を用いて街との関係を深め、記録してゆく。「手描き」と「本」はいつまでも残ると信じているイラストレーター、Fanyuが出会い、見つけ、描いた京都。
ぜひ手に取って、記憶のなかと目の前に広がるふたつのこの街を同時に歩くように、旅のお供としていただければ幸いです。

 

www.keibunsha-books.com

 

 

(涌上)