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恵文社一乗寺店 スタッフブログ

恵文社一乗寺店の入荷商品やイベントスケジュール、その他の情報をスタッフが発信いたします。

今週の新入荷、3月第4週

早いもので3月も終わりが近づいてきました。

新生活に向けての準備を整える方も多いであろう時節、忙しなさの合間にもふっと一息をついて本を開き気づけばいつしか熟読を始めてしまう、そんな余白の時間を日常のなかに忘れないように持っておきたいものです。

それでは、3月第4週の新入荷をお届けいたします。

 

卵黄、酢、塩、胡椒にオリーブオイル。それらをどんな配分と力加減で混ぜるかによって固まるか柔らかくなるかが決まるマヨネーズ。脚本、キャスト、天候など様々な要素からなる映画も、その配分と混ぜる時の力加減で生きるか死ぬかが決まる。雑誌作りもまた然り。

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フランスの映画批評家アンドレ・バザンの「マヨネーズ理論」をそのタイトルに冠した新しいムービーカルチャーマガジン『ムービーマヨネーズ』。日本未公開の映画を紹介・上映するGucchi’s Free Schoolにより、青春映画の特集上映イベントにあわせて制作されたこちらの創刊号。そのクオリティの高さから映画好きのあいだで大きな話題を呼んだものの手に入る機会の極めて少なかった一冊が増刷され、取り扱いが可能になりました。売れ行きを見ていても、いかに本誌を手にする機会を待望されていた方々が多かったかを感じます。

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リチャード・リンクレイターの長編第2作"Slacker"、ティーン文化と青春映画の源流を追ったマット・ウルフのドキュメンタリー"Teenage"、スティーブン・ミルハウザーの短編を映画化したキャリン・ウェクター"The Sister Hood of Night"など、昨年Gucchi’s Free Schoolにより上映された7本の映画をイラスト付きで紹介するページに始まり、字幕翻訳家による翻訳講義、青春映画の舞台となったアメリカの土地マッピング、ハイスクールの建築空間解説、映画に見るティーンのファッション変遷など、共感を軸にするだけでない、時代や文化、バックグラウンドそのものに着目するような映画の楽しみ方を様々なヴァリエーションで体現し紹介してゆきます。

ティーンムービーをテーマにしたドキュメンタリー"Beyond Clueless"に登場する約200本の青春映画全作解説とチェックドリルはデータとしても非常に貴重で、映画鑑賞の参考としても重宝することでしょう。柴田元幸、山崎まどか、三宅唱ら豪華な執筆陣によるテキストも収め、フルカラーでこの価格設定。映画そのものの魅力はもちろんそうですが、対象を楽しむ視点や態度を教えてくれるような愛と熱量があふれた一冊。今後の展開も大いに楽しみなリトルプレスです。

 

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今週届いた2冊の絵本。ノルウェーのデザインユニット、ヨーコランドによる『パンやのブラウンさん』と、ポルトガルのイラストレーター、カタリーナ・ソブラルによる『ぼくのおじいちゃん』。どちらもデザイン性にすぐれた楽しい絵本です。途中から展開するメタ構造により色の存在そのものが物語を牽引する前者と、その組み合わせやトーンに見られる作家の色彩センスとこだわりが目に楽しい後者と。それぞれの地域性、お国柄も感じ取れるような2冊、プレゼントにもおすすめしたい可愛らしい絵本たちです。

 

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深瀬昌久や渡辺雄吉らの写真集を刊行してきた東京の写真出版レーベル「roshin books」より7冊目の写真集、柳沢信(やなぎさわ・しん)『Untitled』が届いています。写真家が最も精力的に活動した60〜70年代、日本各地を旅する途上に見つめ、カメラを向けた風景の数々。

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写真は固有の言語であり「写真に言葉はいらない」。そう言い続けたという写真家の作品群は、決定的瞬間と言うにはありふれているものの、日常と捨て置けばついぞすくい取られなかったであろう「写真の時間」を、さらりと衒いなく観る者のまえに取り戻すような強さと美しさをそなえています。言葉で語ろうとすれば抜け落ちていくであろう、写真そのもののなかに存在する"質"を確かめるように、ぜひ手にとってご覧いただきたい作品集です。

 

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最後にご紹介するのはライナー・シュタッハ『この人、カフカ?』。

20世紀を代表する作家として、死後多くの文学研究者によってその複雑な側面が描き出されてきたにもかかわらず、いまだ拭われないステレオタイプな「カフカ風」イメージ、文学から遠く離れたマスメディアによって安直にレッテル貼りされた神話。硬直したイメージを打破し、カフカその人の実像に接近するために、日記や手紙、走り書きやサイン、出版広告や高校修了証、アンケート用紙や遺言状、周囲の人々の回想など、小さな痕跡を拾い集めて提示した本書。ひっかかったエイプリルフールのジョーク、カバンに忍ばせていたインディアン本、唯一嫌悪感をあらわにした同時代の作家について…。小さな断章や断片を膨大に書き残したカフカその人に倣うように、写真や図版を伴って編まれた作家の99の横顔は、それぞれもまたひとつの側面に過ぎないわけですが、ひとつひとつが積み重なりあい、掴み難いカフカその人の奥行きがあらわれ知られるとき、硬直したイメージは氷解し、読み手とカフカとその作品の三者の関係はまた新しく豊かなものになっていることでしょう。著者のライナー・シュタッハは十数年もかけて3巻本の大著となるカフカ伝を書き上げた無類のカフカファンどれだけ読まれ知られても、読まれ尽くされ知られ尽くされることなどない偉大な作家とその作品にあらためて出会う最初の一冊として、ぜひ手に取っていただきたいユニークな書籍です。

 

そのほか、本と本の置かれている環境を主題にした潮田登久子さんの「本の景色/Bibliothecaシリーズ」の2冊目と3冊目『先生のアトリエ』『本の景色/BIBLIOTHECA』、料理家・長尾智子さんの2年近くぶりとなるレシピブック『食べ方帖』、ホラーからダークファンタジーまであらゆる種類の菌類小説を編纂した異色のアンソロジー『FUNGI 菌類小説選集』、皆川明さんがワタリウム美術館で行ったワークショップのドキュメントブック『皆川明 100日 WORKSHOP』なども今週入荷しています。

ご来店の際はぜひそれぞれを手にとってご覧になってみてください。

 

それでは、次回の新入荷もお楽しみに。 

 

《今回ご紹介した本》

『ムービーマヨネーズ 創刊号』Gucchi's Free School

http://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000020949/

『パンやのブラウンさん』ヨーコランド ひだにれいこ訳/WORLD LIBRARY

http://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000020948/

『ぼくのおじいちゃん』カタリーナ・ソブラル 松浦弥太郎訳/アノニマ・スタジオ

http://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000020945/

『Untitled』柳沢信/roshin books

http://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000020963/

『この人、カフカ?』ライナー・シュタッハ 本田雅也訳/白水社

 

(涌上)