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恵文社一乗寺店 スタッフブログ

恵文社一乗寺店の入荷商品やイベントスケジュール、その他の情報をスタッフが発信いたします。

今週の新入荷、2月第4週

書籍

早いもので2月も最終金曜日。夕陽の沈むのが日に日に遅くなり、近づく冬の終わりを感じます。寒さで足が遠のいていたものの暖かくなれば行きたい場所のあれやこれや、そこで開きたい本の顔やタイトルを思い浮かべ数え上げながら春を待つ日々です。

それでは、2月第4週の新入荷をお届けします。

 

眠れないので夜が更ける

私は電燈をつけたまま仰向けになって寝床に入っている

電車の音が遠くから聞こえてくると急に夜が糸のように細長くなって

その端に電車がゆわえついている

(「夜がさみしい」)

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今週まずご紹介するのは夏葉社の新刊詩集『美しい街』です。

戦前の詩人、尾形亀之助が活動初期から晩年のあいだに書いた全詩から55編を選び、新たに編んだ一冊です。哀しみや寂しさを、ことさら憂うというよりもぽつぽつと独りごちるような飾り気のない詩情。とぼけているようで純粋に曝け出される心の裡。点描される風景の断片、その美しさと寂寞。幾重にも重なる詩人独自の魅力は、世紀をまたいでも色あせることはありません。詩の合間に挿入される亀之助と同時代の画家・松本竣介のデッサンがその詩世界を一層際立たせ、この詩集を特別なものにしています。おさまりの良い小ぶりなハードカバーという判型も美しく魅力的です。一篇ごとは短く、淡々と過ぎ去ってゆきますが、巻末エッセイを寄せた能町みね子さんがかつてしていたように「最初から通してすべて読もうとせず、数年にわたって、何気なく開いてはそこの数篇を読み、閉じる」。そんな読書体験もまた相応しいのではないか、と思わせてくれるような佇まいの詩篇です。

 

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 前著『スープ』からおよそ二年半、料理家・細川亜衣さんの新著『野菜』も今週の入荷。季節ごとそれぞれに特別な味を持つ旬の野菜を生かし、普段の食卓に、もてなしのご馳走に、滋養が身体に沁みわたる和洋中エスニックさまざまなレシピを紹介します。料理書であると同時に、ヴィジュアルブックとして非常に美しかった前著と同じく、オールフルカラーの写真は写真家の在本彌生さんが担当されています。色とりどりの野菜を用い、匂い立つような臨場感をもたらす料理の行程や食卓の風景を収めた写真は、目にも美味しく、生きることそのものに繋がる食と料理の豊かさを伝えます。イタリアで学び、熊本に移住し、過ぎ越してきた時間を織り込んだ細川さんのエッセイも、ひとりの料理家が培ってきた経験に即した実感に触れることができる稀有なもの。一冊のなかに、レシピとビジュアルブックとエッセイを内包した美しい料理書です。

こちらは、少部数ですが著者サイン本も店頭にて販売しております。気になる方はぜひお早めに。

 

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熊本にゆかりのある書き手たちの文章を束ね、「職人の自主的な共同組織」を意味する言葉をタイトルに冠した文芸誌『アルテリ』。年2回発行のこちらも、早いもので三号が届きました。石牟礼道子さんや渡辺京二さん、伊藤比呂美さんや坂口恭平さんなど、熊本にゆかりを持ちながら作家としてひろく全国に名を知られる豪華な執筆陣と、熊本に店を開く橙書店という本屋が編集発行するからこその繋がりでわたしたちにも届けられる書き手たちの文章を収めます。テーマを設けることなくそれぞれに書きたいことを書く、というシンプルながら一貫した編集方針が、つらつらと読んでいるうちに思わぬ素晴らしい文章と出会う、文芸誌ほんらいの楽しみを思い起こさせてくれます。創刊から一年を経て、初号よりページ数もおよそ100ページ増え、ますますの読み応えをそなえた一冊です。じっくり腰を据えてお楽しみください。

しばらく売り切れ状態だった創刊号も増刷され、こちらも同時入荷していますので、まだお持ちでない方はこちらもこの機会にぜひ。

 

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最後にご紹介するのは、新入荷ではなく今週ひさしぶりに再入荷したこちら。『学習まんが アフォーダンス』。思想としてのデザインを、デザインされたテキストで届けるメディア「ÉKRITS/エクリ」が「学習まんがのフォーマットで遊ぶ」ことをコンセプトに制作した冊子の第一弾です。

一脚の椅子は、座るものであると同時に、ある状況では踏み台に、物置として使う人もいれば、時にそこに隠れることだってできる。そんな導入から、環境と動物との関係、環境が動物に提示する意味や価値について提唱した心理学者のジェームズ・J・ギブソンの理論「アフォーダンス」を紹介するユニークなこちらの冊子。子どもたちが楽しく学べる学習まんがというフォーマットを採用し、難解に思える理論と感覚を解説しながら、わたしたちが無意識に行っている環境や外界との接し方をあらためて捉えなおすきっかけを与えてくれる一冊です。第二弾『記号とアブダクション』とあわせての昨年の店頭フェアでは関連書籍も並べ、多くの方に手に取っていただきました。しばらく売り切れていたのですが、このたび増刷され、また取り扱いが可能に。当店としても長く取り扱っていきたい本シリーズ。第二弾『記号とアブダクション』とあわせてぜひご覧ください。

 

そのほか、名著『ぼくの美術帖』から35年の時を経てあらたに編まれたイラストレーター原田治さんの美術エッセイ『ぼくの美術ノート』、台所という生活の場を起点に人々の営みに目を向ける大平一枝さんの『男と女の台所』、当店から程近い出町柳のトランスポップギャラリーで個展開催中の新鋭画家・中田いくみさんの初漫画作品集『かもめのことはよく知らない』、イタリア人フォトグラファー、Cesare Fabbriによるユーモラスで美しい路傍の風景写真集『THE FLYING CARPET』なども今週入荷しています。

ご来店の際にはぜひそれぞれを手に取ってご覧になってみてください。

 

それでは、また来週をお楽しみに。

 

《今回紹介した本》
『美しい街』尾形亀之助/夏葉社

http://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000020837/

『野菜』細川亜衣/リトルモア

http://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000020878/

『アルテリ 三号』アルテリ編集室(橙書店)

http://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000020874/

『学習まんが アフォーダンス』大林寛 コルシカ/ÉKRITS

http://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000020406

 

(涌上)