恵文社一乗寺店 スタッフブログ

恵文社一乗寺店の入荷商品やイベントスケジュール、その他の情報をスタッフが発信いたします。

『須賀敦子の手紙』

雑誌『つるとはな』から初めて本が発売されました。

  

f:id:keibunshabooks:20160606140737j:plain

 

この『須賀敦子の手紙』は、須賀敦子が1975年から1997年の22年の間に、妹・北村良子と、コーン夫妻ら友人と交わした55通の私的な手紙がまとめられた一冊です。高精度のカラー写真が実に174枚掲載されており、文字が読みにくいものは、活字にも起こされ、その青インクの筆跡のひとつひとつから、素顔の須賀敦子を垣間見ることができます。文芸誌サイズの本にしては少し高く感じるかもしれませんが、手にとればきっと納得していただけることでしょう。なお、こちらの一部は『つるとはな』創刊号、第2号にも掲載されています。

 

  f:id:keibunshabooks:20160606115531j:plain       

 

『須賀敦子の手紙』を読んで再認したのは、手紙というツールの面白さです。一行程度の短い言葉のやりとりを主とするメールやSNSと違って、本書に掲載されている手紙の大半が1000字を優に超えています。私なぞはこのブログの文章を書くことにすら、四苦八苦しているわけですから、たまには手紙でも書いてみようかと思って筆をとると、とたんに茫然としてしまいます。須賀敦子の手紙は枕の部分や無駄話が異様に面白く、そうそう手紙を書くことがなくなった我々の世代には、新鮮な驚きがあるかもしれません。(結婚式の招待状への返事ひとつでさえ面白く読めてしまうあたりはさすがとしかいいようがない。)

 

 f:id:keibunshabooks:20160606120018j:plain

 

私的な手紙が、彼女の作品をより深く理解するためにいかに重要か語るのは『つるとはな』本誌同様、編集を手がける松家仁之さん。松家さんは新潮社の編集者時代に彼女に出会い、その魅力に導かれたそうです。松家さん自身が『須賀敦子の手紙』が出来上がるまでの過程を語った講演が『新しい須賀敦子』(江國香織、湯川豊と共著、新潮社)に収録されており、その中で文学者と手紙の関係について夏目漱石を引き合いに出して解説されています。

 

f:id:keibunshabooks:20160606120305j:plain

 

直接これらの本と関係はありませんが、全集全十六巻のうち、二巻が書簡で埋まるほど筆まめであった漱石をはじめとして、安部公房、谷崎潤一郎ら大家たちの肉筆の手紙をまとめたその名も『肉筆で読む 作家の手紙』(青木正美著、本の雑誌社)は、合わせて読むと面白い一冊です。手紙という切り口から文学を切り取ってみると、きりがないほど掘り下げることができますが、それはまた別の機会に。

 

f:id:keibunshabooks:20160606120325j:plain

 

手紙そのものの面白さ、須賀敦子という作家をより深く知ることができる造本も美しい本です。まだ須賀敦子に出会っていないという方も、これを機に読み始めてみてはいかがでしょうか。

(鎌田)