恵文社一乗寺店 スタッフブログ

恵文社一乗寺店の入荷商品やイベントスケジュール、その他の情報をスタッフが発信いたします。

今週の新入荷、3月第2週

毎週金曜更新の「今週の新入荷」、3月第2週の新入荷をご紹介します。

今週まずご紹介するのは、老いにまつわる"人・物・事"をセレクトした情報誌『PERSPECTIVE from an oblique』。

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介護福祉の現場で実際に働いてきた編者が、老人ホームの入居者が発した一言を発端に考え、向きあってきた「老いに関する歴史」を取り上げたこちらの創刊号。
冒頭より、「古今和歌集」や世阿弥の「風姿花伝」などの古典、深沢七郎の「楢山節考」といった文芸作品や、江戸時代に生きた二人の医師、香月牛山と杉田玄白が遺した文章などを紹介しながら、この国における老いの文化と様式を辿ります。また、文献にあたるだけでなく、棄老(=おばすて)伝説発祥の地である長野県千曲市や、今村昌平版の映画『楢山節考』のロケ地となった真木集落を実際に訪れ、旅の途中に出会った人々との交流などもレポートしてゆくページも続くことで、老いに関する歴史と現在との繋がりや対比を感じ取れる構成となっています。後半の特集では、社会がどのように老いと関わってきたか、現在の介護保険制度に至るまでの道のりを時代ごとの芸術などとともに丹念に辿ってゆく特集を展開しています。

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分かりやすい答えなど存在しないトピックであるからこそ、様々な文献にあたりながら慎重に実感をのせてゆく編者のテキストは、完全な主観でも客観でもない"斜めからの視点"という誌名通りのバランス感覚を感じさせ、豊かなビジュアルと洗練されたレイアウトで展開される雑誌的構成は、少子高齢化社会を生きるわたしたちにとって身近でありながらどうしてもシリアスにならざるを得ない「老い」というテーマの再考を軽やかに促します。今後の刊行や特集内容にも大いに期待したい情報誌です。
書店では、本誌に掲載された文献を中心に、老いについて考えるヒントとなるような書籍を集めたフェアを近日より開催予定です。こちらもぜひお楽しみに。

 

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日本の建築の大家、香山壽夫が1964年の渡米以来、アメリカやヨーロッパを巡り撮影してきた膨大な数に及ぶ建築写真。そのなかから厳選された36点の写真と、写真のなかの建築について綴った文章を収録した『建築のポートレート』も今週の入荷です。

古代の神殿から、中世の教会や修道院、洞窟住居、近世になって生まれた都市や荘園、近現代の図書館や社屋まで、時代や風土も異にしながら常にそれを必要とした人々や先行する文化から生まれてきた建築という営みそのものを、かつてその前に立った一人の建築家の記憶とファインダー越しに捉え収めてきた記録を通して辿る、紀行文集のような体裁の本書。

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名所観光や客観的なデータとしての建築写真集は世に多くありますが、個人の記憶や実感によりフィルタリングされ浮かび上がる建物や街の姿は、読み手にとって一層印象深く定着するもの。それが、専門家のフィルターであればなおのこと。建築にはなじみが薄いというような方にこそ、本のなか、建築を経巡る旅に出るような心持でそのページを開いていただきたい美しい一冊です。

 

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骨董、工芸、建築などを扱う年3回発行の書籍『工芸青花』の取り扱いが最新7号よりスタートしました。
現在、大山崎山荘美術館で個展開催中(~3/12まで)、当店でも関連書籍をよく手に取っていただいているフランスの画家、ロベール・クートラス。その作品はもちろん、人となりなどの周辺を巡る堀江敏幸の文章があらたに連載として加わった今号では、哲学者・井上治と花人・川瀬敏郎によるコラボレーションや、従来の日本美術や日本工芸の枠に縛られない90年代以降の「生活工芸」派と、それよりもさらに若い世代の作家たちによる「作用」派の作品や作家を多数のビジュアルやテキスト、対談などで紹介する特集、白洲正子をして「稀に見る目利き」と言わしめた骨董工芸随筆家の秦秀雄の旧蔵品とともに彼の功績と来歴を様々な書き手のペンにより紹介する特集などを掲載しています。手触りの良い麻布張りの上製本に包み込まれた工芸品のように美しい本書は、手に持ち、開くことができる本の物質的な豊かさと歓びを再認させてくれます。

工芸青花からは、東京・南青山で朝鮮の古美術を扱う「梨洞」を開く李鳳來さんが李朝の古美術の魅力を綴った書籍『李朝を巡る心』も同時に入荷しています。こちらも近日中にオンラインショップにてご紹介させていただきますので、ぜひご覧ください。

今週は嬉しい入荷がもう一点。

昨年末に入荷したものの瞬く間に売り切れとなっていた山尾悠子さんの幻の歌集『角砂糖の日』約30年ぶりの復刊新装版。当初、重版の予定はなかったこちらの第二刷が今週新たに届いております。

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塚本邦雄や葛原妙子など若き日の作家が傾倒していた歌人たちに導かれるようにして作った眩いばかりの短歌の数々。新版発行に際し、合田佐和子、まりの・るうにい、山下陽子による妖しくも美しい挿画を一葉ずつ収載し、作家自身による書き下ろし掌編小説「小鳥たち」と「新版 後記」も収録。わずかにグレーがかった白い貼函のなかに収まる真紅のハードカバーの表紙には金の箔押しが施された美術品のような一冊です。こちらは、今回も在庫限りの限定数販売となりますので、ぜひお早めに。

 

そのほか、新しい出版社スタンド・ブックスの刊行第一弾、待望された方も多いであろうSSW前野健太の散文集にして初の単行本『百年後』、所有することではなく貸し借りすることにこれからの住まいかたの可能性を探るウェブマガジン発の一冊『#カリグラシ 賃貸と団地、貸し借りのニュー哲学』、イラストレーター・オカヤイヅミさんが現代作家15人と食卓を共にしながらそれぞれが選ぶ最後の晩餐についてインタビューするコミックエッセイ『おあとがよろしいようで』、日本を代表する現代演劇集団「地点」が北白川に構えるアトリエ兼劇場「アンダースロー」から投じる雑誌『地下室 草号』の第2号、「ニューヨーカー」誌のイラストレーターが聞き書きした興味深い逸話と共に世界の75の書店を紹介する『世界の夢の本屋さんに聞いた素敵な話』なども今週入荷しています。

ご来店の際にはぜひそれぞれを手に取ってご覧になってみてください。

 

それでは、また来週をお楽しみに。

 

《今回ご紹介した本》
『PERSPECTIVE from an oblique 01』合同会社カワタ社

http://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000020908/

『建築のポートレート』香山壽夫/LIXIL出版

http://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000020917/

『工芸青花 7号』青花の会/新潮社

http://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000020918/

『角砂糖の日 新装版』山尾悠子/LIBRAIRIE6

http://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000020910/

 

 

(涌上)

中川彩 個展「おほむねオヤツ」絵と張り子人形の展示

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ギャラリーアンフェールでは『中川彩 個展「おほむねオヤツ」絵と張り子人形の展示』を開催中です。香川県で制作されている中川彩さん。2015年に当ギャラリーで開催された個展「愉栞」も記憶に新しいところです。楽しいタイトルと可愛らしいDMは開催前から大好評、お待ちかねの登場です。

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入口では、大迫力のクジラがめくるめくオヤツの世界へお出迎え。

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続いてずらりと並ぶ油彩、水彩は、どれもどこかにオヤツが描かれています。おいしそうなオヤツから広がる不思議な世界。どれもお腹いっぱいしあわせを満たしてくれるような見応えたっぷりの絵画が揃いました。

 

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手のひらに乗るくらいのころころ可愛らしい張り子人形もたくさん!砂糖菓子のような優しいパステルカラーで絵付けされ(すっかりオヤツ脳になってお菓子にみえてしまいます)、表情豊かな張り子人形は眺めていると自然と顔もほころびます。中川さんの不思議な絵の世界からポンポンッと飛び出してきたようなユニークな人形が並びます。

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こちらは中川さんがデザインされた菓子木型。和三盆もセットになってすてきな箱に収められています。お家で中川さんの絵の世界が本当に食べられるなんて、わくわくしますね。

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作品は全て販売しています。絵画、菓子木型は会期終了後のお渡し、張り子人形はその日にお持ち帰りいただけるので、お気に入りに出会ったら、どうぞお声かけくださいませ。

 

そして、会期中の12日(日)にはギャラリー隣のコテージにて関連イベントも開催!中川さんの張り子人形絵付けワークショップをはじめ、中川さんのお仲間合わせて3人が揃って盛りだくさんの賑やかなイベントです。こちらも、展示と合わせてぜひお気軽にご参加ください。

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展示をみた後はきっと大好きなオヤツが食べたくなりそう…甘くて不思議で夢のようなひととき、どうぞごゆっくりお楽しみください。ご来場を心よりお待ちしております。

 

中川 彩 個展「おほむねオヤツ」絵と張り子人形の展示

開催期間:2017年3月7日(火)-13日(月)

開催時間:10:00-21:00(最終日は18:00まで)

開催場所:ギャラリーアンフェール

 

いつも、ひとくちのオヤツが待ち遠しい。オヤツの愉しみを包含する、現実と空想のはざまを描きとめました。

オヤツのようで、オヤツでない。展示はおおむね、オヤツの絵。

一口の甘美な世界を、ぜひご賞味ください。

絵画のほか、パステルカラーの張り子の展示販売も行います。

 

《3/12(日) COTTAGEにて関連イベント開催!》

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日時:2017年3月12日(日)11:00-19:00

場所:恵文社一乗寺店コテージ

イラスト芸風濃いめ=シャカリキな四国のイラストレーター♀三匹による1DayShopが恵文社コテージにOPEN!張り子ワークショップ、消しゴムはんこの即興彫り、イラスト雑貨、絵本や粘土人形などなどモリモリたくさん販売します。

※ワークショップおよび消しゴムはんこの即興彫りに予約は不要です。随時ふるってご参加ください。

詳細はこちら→http://www.cottage-keibunsha.com/events/20170312/

 

【中川彩 Nakagawa Aya】

香川県美術家協会会員。

個展「ゆきむしかご」(高松市・IKUNASg)、映画「猫と電車~ねことでんしゃ~」オープニングイラスト(2012年)

個展「中川彩絵画展」(海陽町立博物館)(2013年)

映画「恋とオンチの方程式」絵本イラスト(2014年)

個展「愉栞」(京都市・恵文社一乗寺店ギャラリーアンフェール)(2015年)

個展の他、香川県美術展覧会、越後湯沢全国童画展等、絵画展に出展多数。

blog http://tababayama.exblog.jp

 

(上田)

BIBLIOPHILIC BOOK ITEM FAIR

夏目漱石が「吾輩は猫である」を書き上げたときから、さらに遡ればE・A・ポーが「黒猫」を思いついた瞬間から。本と猫の相性が良いことは、私たちにとって当たり前のように認識されてきました。猫が傍にいる読書の時間は、何にも代え難い至福の時間です。

 

そんな気分を感じさせるブックアイテムブランドをご紹介します。

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黒猫が目印、本のある生活を楽しむためのブランド“BIBLIOPHILIC”。

実際に猫を飼っている人は気付かれるかもしれませんが、シンボルの黒猫は少し頭が小さくデザインされています。聞けば、子猫の骨格をモチーフにしているそうで、愛らしく、それでいて洗練された印象を受けるのはそのためのようです。不思議なもので、猫は年齢を重ねるごとに頭がまあるくなるそう。

 

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カバー、ブックマーク、スタンド、ダストブラシ…。“BIBLIOPHILIC”は、当店で取り扱うブックアイテムの定番として多くの方の手にとっていただいております。現在、書店奥にて普段よりもスペースを拡張してブックアイテムを展開中です。これまで取り扱いのなかった、ポップな柄のアイテムなど多数取り揃えました。

 

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小花柄の代名詞として用いられることの多い、1875年創業の英国Liberty社製のプリント綿タナローンを使用したブックカバーと栞。丈夫さと手触り◎。

 

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本の収納にぴったりなブックコンテナ。レギュラーサイズとハーフサイズはそれぞれスタッキングが可能です。表裏に描かれた柄を組み合わせると猫が積み重なった本の上に座っているような姿に。

 

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外側のポケットに本がすっぽり入るその名もブックトート。丈夫な作りなので、ついつい本を買いすぎた帰り道も安心です。通学にも。

 

その他、ここでは紹介しきれなかった

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アイテムも。

自転車の移動も気持ちの良い気候に移り変わってきました。

春の読書、ブックハンティングのおともにぜひ。

 

BIBLIOPHILIC ウェブサイト

http://diskunion.net/bibliophilic/

(鎌田)

シキヤリエ cnr by chahat 2017

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鎌倉、沖縄に店舗を構える「chahat」。そこで働くシキヤリエさんを中心とした、cnrによるアクセサリー展が始まりました。素材とするのは、世界を旅して見つけてきたアンティークのガラスビーズや、ターコイズ、ラピスラズリなどの石たち。時間の経過や、遠い海を越えてきたことが伝わるように、ひと粒ずつ表情が異なります。

専用糸を使わないと穴に通せないほどの、とても小さな石も繋げて、ネックレスやブレスレットに仕上げています。商品のタグには値段に加えて、Afganistan、Jumla(ネパール)、Orissa(インド)など、それぞれの原産地も記載されています。旅先の様子は、写真家・関めぐみさんとの作品集『JAIPUR』に詳しいので、そちらも眺めつつ、ビーズの元いた土地に、思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

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商品はどれも1点もの。ネックレスの長いタイプは4重に巻いて、ブレスレットにすることも。お気軽にご試着くださいませ。

 

シキヤリエ cnr by chahat 2017
3月4日〜3月17日
恵文社一乗寺店 生活館ミニギャラリー

 

(田川)

きたがわじゅり個展 あの日の砂糖漬け

少しずつ春めいてきたこのごろ。近所を散歩をしていると、いつの間にか足元に小さな花が咲いていて、桜の木も待ちきれないとばかりに日に日に蕾をふくらませているようです。

ギャラリーアンフェールではイラストレーター きたがわじゅりさんの個展『あの日の砂糖漬け』を開催中です。春のはじまりにぴったりのすてきなイラストが並びました。

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小さな額にていねいに収められたイラスト。やわらかい線、やさしい色合いで描かれるお花や石ころ、甘いもの・・・女の子の大好きなものが宝物のような絵になりました。

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イラストは全て販売もしています。お気に入りがみつかったら、スタッフに気軽にお声かけくださいませ。(イラスト作品のお渡しは会期終了後となります。)合わせてグッズも販売。レターセットやポストカードは、最近会えていない大事な友達に、何気ない日常を一筆したためたくなるような素敵なイラストが印刷されています。

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iPhone7ケースやハンカチーフも。花の絵がちりばめられてついつい手にとってしまうほどの可愛らしさです。

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「あの日の砂糖漬け」。ほんのひとときのしあわせをいつまでもキラキラと宝石のようにとっておけるよう、色あせないよう、いつでも思い出せるよう、甘く閉じ込めた一枚一枚。眺めていると春の日差しでとろけるように、ほろほろと心がほぐれていくようです。

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お散歩がてら、ぜひお立ち寄りください。このひとときが甘い砂糖漬けになりますように。ご来場を心よりお待ちしております。

 

きたがわじゅり個展 あの日の砂糖漬け

開催期間:2017年2月28日(火)-3月6日(月)

開催時間:10:00-21:00(最終日は18:00まで)

開催場所:ギャラリーアンフェール

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日々の幸福やいとおしさを、わすれたときにはちゃんと思い出せるよう、

いつかのわたしをしあわせにしてくれたものたちを、描き留めました。

小さな絵たちの展示です。

ぜひ、あそびにいらしてくださいね。

 

(上田)

今週の新入荷、3月第1週

毎週金曜更新。

その週に入荷した活きが良い本を紹介する「今週の新入荷」、3月第1週をお届けします。

 

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今回まずご紹介する一冊は、ポール・オースターの新刊『冬の日誌』。人生の冬を迎えた70歳の作家による肉体と感覚をめぐる回想録。「君は十歳で、」「君はもう若くない。」…2、3行の短いセンテンスが連続し、時系列も断絶した走馬灯のような冒頭の文章に引き込まれ、奥に踏み込み、彼の人生を覗き見る。静かな、それでいて胸を打つ文章が広がる一冊です。本書と対をなす、精神をめぐる回想録『内面からの報告書』も来月末発売予定。翻訳はもちろん柴田元幸さん。ちょうど私もそうだったように、大半の若い読者にとって海外文学の入り口は柴田さんの訳書です。

4月2日の夜、柴田さんをお招きした朗読会を開催します。今回の中心はもちろんオースター。柴田さんの朗読を聞くと、彼が普段いかに音を大切にして翻訳をしているかよく伝わってきます。いつもの温和な柴田さんの雰囲気から想像もつかない、低く、唸るような声で行われる、迫真の朗読。過去に当店で開催した朗読会で披露された、ポーの「赤死病の仮面」を聞いた時は身震いがしたほどです。毎回満員予約締切となる人気のイベント。ご参加予定の方はお早めのご予約をおすすめします。http://ignitiongallery.tumblr.com/post/157571491682/

 

絵本のレンタルプロジェクトを中心に活動するWORLD LIBRARYが発行する絵本の取り扱いを開始しました。まだ販売店が多くないようなので、当店にお立ち寄りの際は要注目。英米だけに限らず、イタリア、スペイン、ノルウェー、韓国、中国などあらゆる国の絵本を翻訳されています。現在の取り扱いはこちらの4冊。今後、積極的にラインナップを増やしていく予定です。

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イタリアでたくさんのこどもに読まれている、スライドの仕掛けを動かして遊ぶ絵本「ちいさな ゆびで」シリーズ。 

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実際に一冊を貫通して空いた小さな穴を巧みに使ったユーモラスなストーリーが魅力的なノルウェーの絵本『穴』。 

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ハーマン・メルヴィルの「白鯨」をもとに生まれたスペインの絵本『エイハブ船長と白いクジラ』。こちらは海外文学の棚に並べています。

 

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クジラといえば、1995年生まれを中心とした若者たちが編集する文芸雑誌、『文鯨』第二号も入荷しています。特集は「叫びを翻訳するということ」。海外文芸の翻訳が単なる言語の言い換えに留まらないのと同じように、個人の内面から生じる叫びを批評、小説、詩歌など、あらゆる文芸表現へと昇華する。表現、批評するということを改めて泥臭く見つめ直そうとする気概にあふれた作品ばかりが揃います。第二号の発刊を迎え、より彼らの目的が明確になったといえるでしょう。要注目の書き手、山本浩貴+hの作品や、若き写真家、嶌村吉祥丸の断片的な写真と散文を収録。今後の刊行も楽しみな実験的な一冊です。

 

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建築専門誌『GA JAPAN 145』特集「建築にまつわる本のはなし」入荷しています。建築家50人が勧める本のコーナーをはじめ、原研哉が語る建築とメディアの関係、隈研吾が語る建築と庭など、特集内のすべてのトピックで読者が参考可能な書籍が紹介されています。しかも全体の7割が特集ページというまさに完全保存版です。ゆくゆく重宝すること間違いなし。

 

その他に、ひと組み合わせの音に対して多数の意味を持つ"多義語"を取り上げる小冊子『タギゴのイ』、雑誌ニューヨーカーを代表する書き手であり、常盤新平も絶賛したジョゼフ・ミッチェルの作品集『マクソーリーの素敵な酒場』(柏書房)、詩人西尾勝彦さんの最新詩集『光ったり眠ったりしているものたち』などが入荷しています。

 

それでは来週もお楽しみに。

 

《今回紹介した本》

『冬の日誌』ポール・オースター 柴田元幸訳 新潮社

『あおいよるのゆめ』ガブリエーレ・クリーマ WORLD LIBRARY

http://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000020882/

『穴』オイヴィン・トールシェーテル WORLD LIBRARY

http://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000020884

『エイハブ船長と白いクジラ』マヌエル・マルソル WORLD LIBRARY

http://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000020885/

『文鯨 第二号』文鯨編集部

http://www.keibunsha-books.com/shopdetail/000000020889/

『GA JAPAN 145』A.D.A EDITA TOKYO

 

(鎌田)

 

2017年2月書店売上ランキング

坂元裕二が脚本を手がけるドラマ「カルテット」。久しぶりに欠かさずにドラマを見ています。セリフの掛け合いやキャスティング、どれを取っても面白く、毎週火曜日が楽しみでなりません。中でも毎回ハッとさせられるのは、登場する料理の美味しそうなこと。クレジットをみると料理は飯島奈美さんが手がけているそうです。良い映画やドラマに食事シーンは欠かせません。飯島さんの新刊『LIFE 副菜2』も入荷しています。ほぼ日から。

 

それでは、2017年2月の書籍売上ランキングをお知らせします。

 

1位『美しい街』尾形亀之助 夏葉社

2位『一汁一菜でよいという提案』土井善晴 グラフィック社 

3位『という、はなし』吉田篤弘 フジモトマサル 筑摩書房

4位『SPECTATOR vol.38 特集赤塚不二夫』エディトリアル・デパートメント

5位『千明初美作品集 ちひろのお城』千朋初美 復刊ドットコム

6位『自分で考えよう』ペ-テル・エクベリ スヴェン・ノルドクヴィスト 晶文社

7位『茨木のり子の献立帖』平凡社

8位『家族最後の日』植本一子 太田出版

9位『下北沢について』よしもとばなな 幻冬舎

10位『鹿児島睦の器の本』鹿児島睦 美術出版社

 

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1位は、夏葉社の新刊『美しい街』。戦前の詩人・尾形亀之助の初期から晩年まで全作品のなかから55の詩を選び、まとめられた詩集。詩の合間には同時代に活躍した画家・松本竣介のデッサンが入っています。夜、部屋でつぶやいたような、美しい言葉たち。辻まことも尾形亀之助の詩集をポケットに入れて持ち歩いていたそうですが、まさに普段から鞄やコートに忍ばせて持ち歩きたい一冊。ポケットにすっぽりと収まる大きさがこれまた良い。復刊を待ちわびていた方にも、おそらく彼の詩人を知らないであろう若い方にも、渋い詩集ながらたくさんの方に届きました。

先日入荷した、平凡パンチ、BRUTUS、POPEYEなど、雑誌という媒体が一番元気だったころに活躍した伝説のフリー編集者・寺崎央のコラム集『伝説の編集者H・テラサキのショーワの常識』に尾形亀之助の記述を発見し、驚きました。曰く「長年読みたいと願っていた尾形亀之助をやっと読めた興奮は抑えようもないんだな。」と。尾形亀之助の詩が新刊で読めるということの幸せ。感じていこうではありませんか。

 

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2位は、もはや当店の定番となった『一汁一菜でよいという提案』。米を中心に、味噌汁と漬物でなる食事の型、「一汁一菜」を提案する本書は、日々忙しく生きる私たちの強い味方です。これで十分と気づいてからは、家での料理が気楽に、愉しくなりました。余談ですが、NHK「きょうの料理」でのアナウンサーの方との掛け合いがなんともゆるく、帰宅してたまたま土井先生の回だとすこし嬉しい今日この頃。

 

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5位は、月刊漫画誌「りぼん」でデビューを果たしながら、70年代後半に数冊の作品集を刊行したきり永らく幻となっていた千明初美。装いを新たに復刊した『千明初美作品集 ちひろのお城』。漫画家の高野文子さんが企画・監修し、今回の刊行を後押ししたことは意外と知られていないようなので、身近に高野さんファンがおられる方はそっと教えてあげてみては。数が少なくなってまいりましたが、先着ご購入特典としてポストカードと高野文子メッセージペーパーをお付けします。こちらは数に限りがありますので、お早めに。

 

それでは、今回はこのあたりで。

また来月、お楽しみに。

(鎌田)